交通事故に遭ったら「いつ、いくらの保険金を払ってもらえるの?」と気になる方が多いでしょう。

確かに相手が保険に入っていれば保険会社が保険金を支払いますが、具体的に、いつ・いくら支払われるかは事案によって異なります。また、一定の相場があるので、把握しておきましょう。

更に、交通事故の賠償金を受け取っても基本的に税金はかかりませんが、中にはかかるケースもあります。

今回は交通事故の保険金の一覧やいついくら支払われるのか、支払いまでの流れや税金について解説します。また、保険金詐欺だと疑われるのが心配な方への解説もします。

万一事故に遭ったときの保険金について気になっている方はぜひ参考にしてみてください。

●この記事でわかること●

  • 交通事故で貰える保険金の一覧がわかる
  • 交通事故で貰える保険金の相場がいくらかがわかる
  • 交通事故で保険金がいつ貰えるかわかる
  • 交通事故で貰える保険金についての税金がわかる
  • 交通事故で保険金詐欺にならないための情報がわかる

目次

そもそも保険金とは

そもそも交通事故に遭ったときに支払われる「保険金」とはどういったお金なのでしょうか?

保険金とは、示談や裁判によって賠償金額が決定したときに保険会社が被害者へ支払うお金です。自賠責保険会社や任意保険会社が支払うので「保険金」といいます。

交通事故の被害に遭うと、ケガの治療費を始めとしたさまざまなお金がかかります。そこで加害者は被害者へ損害賠償をしなければなりません。

ただ加害者が保険に入っている場合、加害者本人は支払いを負担せずに保険会社が支払いをします。被害者は「保険金」を受け取って損害の穴埋めをすることになります。

保険金は慰謝料を含む

よく「交通事故に遭ったら慰謝料を請求できる」と考えている方がいらっしゃいますが、交通事故に遭ったときに請求できるお金は慰謝料だけではありません。
他にも治療費や休業損害、逸失利益などさまざまなお金を請求できます。

保険金にはこういった交通事故によって発生した多種類の損害金が含まれます。
保険金は慰謝料を含み、慰謝料のみより高額になるとおぼえておきましょう。

交通事故の保険金一覧と相場

次に交通事故の保険金にはどういったものがあるのか、一覧でご紹介します。

物損の保険金

物損とは、車が壊れたなど「物」に関する損害です。
事故で車などの物が破損すると、以下のような保険金を請求できます。

物損の保険金

修理費

車の修理費用です。車の時価を限度として実際に修理にかかる金額を請求できます。

代車使用料

車が破損すると、修理している間や買い替える車を探している間に代車が必要となるケースも多いでしょう。その場合、代車の使用料を請求できます。具体的には標準的なレンタカー代を基準とするケースが多数です。

買い替え費用

車が完全に壊れて修理不可能な場合や、修理すると時価を超えてしまう場合、車の時価を限度として買い替え費用が払われます。

買い替え諸費用

車を買い替える際には、ディーラーの手数料、リサイクル料金などのさまざまな費用がかかります。こういった買い替え諸費用の中にも請求できるものがいくつもあります。

評価損

評価損とは、事故車になったことによって車の価値が低下してしまう損害です。
必ず請求できるとは限りませんが、車が新しく走行距離が短い場合、高級外車等の場合に認められる可能性が高くなります。
評価損として請求できる金額は、およそ修理費用の10~30%程度です。

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休車損害

休車損害とは、事業用の車が壊れて修理したり買い替えたりしているときに生じる営業上の損害です。
事業用の車が壊れたら、修理している間に仕事ができず損害が発生してしまいます。そこで「本来なら得られたはずの営業利益」を損失(休車損害)として請求できます。

人身事故(傷害)の保険金

次に人身事故(傷害)の保険金をみていきましょう。
交通事故でケガをして入通院治療を受けると、以下のような賠償金を請求できます。

人身事故(傷害)の保険金

治療費

病院で入通院治療を受けた場合、必要かつ相当な範囲内で実費を請求できます。
診察代、検査費用、手術の費用、入院代、投薬料、処方箋代、薬代などの費用だけではなく整骨院の費用もきちんと手順を踏めば払ってもらえます。
漢方や温泉治療などの費用についても必要があれば請求できる可能性があります。
ただ、保険会社は、民間療法の支払いについては払い渋る傾向が強いです。

付添看護費

病院に入院して親族が付き添った場合、1日あたり6500円程度の付添看護費用を請求できます。
被害者が子どもなどのケースにおいて1人で通院できないために親族が通院に付き添った場合、1日あたり3300円程度の通院付添費を請求できるケースもあります。

入院雑費

被害者が入院すると、1日あたり1500円程度の入院雑費を請求できます。

通院交通費、宿泊費

被害者が通院するために払った交通費も損害の一種なので、相手へ請求できます。
交通費の計算方法について、公共交通機関を利用した場合には実費となります。
自家用車で通院した場合、1kmあたり15円のガソリン代を請求できます。
高速道路代や駐車場代も請求できるので、支払いをしたら領収証などの証拠を取っておきましょう。
タクシー代についても、骨折で歩けないなどの必要性があれば払ってもらえる可能性はありますが、争いになることが多いので注意しましょう。
また遠方の医療施設へ行くために宿泊した場合、宿泊費用を請求できる可能性もあります。

文書料、診断書代

各種の文書をとりよせる費用や診断書代も損害の一種なので、相手へ請求できます。
但し、カルテの費用や、医師の意見書については、払ってもらえないケースも多くあります。

休業損害

交通事故の通院のために仕事を休んだら、その分の収入を得られないので損害が発生します。そこで休業損害として相手へ請求できます。
休業損害の金額は自賠責の基準と弁護士基準で異なります。

自賠責の基準

自賠責保険とは、車両を運転する者に対して強制が義務付けられている強制保険です。自賠責保険の基準では休業損害額は以下の通りとなります。

  • 1日あたりの基礎収入額(6100円)×休業日数

1日あたりの基礎収入額は基本的に一律6100円とします。
ただし実際の収入が6100円を超える場合、1日あたり19000円を限度として実際の収入によって計算します。

弁護士基準

弁護士や裁判所が採用する弁護士基準では、休業損害は以下の通りとなります。

  • 実際に貰っている1日あたりの基礎収入額×休業日数

弁護士基準の場合、基本的には実際の収入額を基準として休業損害額を計算します。
ただし主婦などで現実の収入がない方については「賃金センサスの平均賃金」を使って計算します。

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入通院慰謝料

入通院慰謝料は、事故でケガをした被害者が相手へ請求できる慰謝料です。
ケガをすると被害者は大きな恐怖を感じますし痛みなどの症状にも苦しんで精神的苦痛を受けるので、慰謝料が発生します。
交通事故の入通院慰謝料については3種類の計算方法があり、どの基準を採用するかで金額が異なります。以下でそれぞれについてみてみましょう。

1 自賠責基準の場合

自賠責基準は自賠責保険が採用する計算基準です。
基本的には「治療にかかった期間に相当する日数×4300円」として計算します。
たとえば全治100日の場合、入通院慰謝料は430000円となります。
ただし通院日数が少ないと慰謝料が減額され「実通院日数×2」を基準として計算します。
たとえば全治100日でも実際の通院日数が30日であれば「60日×4300円=258080円となります。

2 弁護士基準の場合

弁護士基準は弁護士や裁判所が利用する計算基準です。
弁護士基準の場合、軽傷や自覚症状のないむちうちのケースとそれ以外の通常程度のけがのケースとで入通院慰謝料の計算方法を区別しています。
軽傷や自覚症状しかないむちうちの場合、通常程度のケガのケースの3分の2程度に慰謝料が減額されます。
また通院日数が少ない場合、弁護士基準でも慰謝料額を減額される可能性があります。

  • 自覚症状しかないむちうちとは

自覚症状とは、「痛い」「しびれる」など患者しか感じられない症状のことをいいます。医学的な証明ができないため、信用性が高くはありません。自覚症状しかない場合にはむちうちの中でも「軽症」といえるでしょう。そこで慰謝料額が減額されます。
一方、「他覚症状」のあるむちうちは重症です。他覚症状とは、MRIなどで椎間板や神経組織や骨の異常を検知できる症状で、医学的に証明できるので信用性が高いと考えられます。
以上のような違いがあるので、弁護士基準では自覚症状しかないむちうちのケースで慰謝料が比較的低くなっているのです。

  • 通常程度のケガの入通院慰謝料(骨折、靱帯損傷、内臓損傷、重度のむち打ちなど)

弁護士基準は、以下の表に従って相場が計算されます。

慰謝料の表①
  • 表の読み方

通院のみの場合は、28万円からはじまる一番左の列が適用されます。治療期間のうち、入院した期間があれば、その期間に応じて2列目以降のマスを使います。
例 入院が無く、2ヶ月の間通院すると52万円となります。
2ヶ月の通院期間のうち、1ヶ月入院していると98万円になります。
3ヶ月の通院期間のうち、2ヶ月入院していると154万円になります。

  • 軽傷や自覚症状しかない(他覚症状がない)むちうちの入通院慰謝料

表の読み方は、通常の怪我のものと同じです。

慰謝料の計算表②

弁護士基準の場合、入院すると通院だけのケースより慰謝料額が上がることがわかりますね。また、治療期間が長くなるとだんだんと上がりにくくなることがわかります。

3 任意保険基準の場合

被害者が任意保険会社と示談交渉する際には「任意保険基準」が適用されます。
任意保険基準とは、各任意保険会社が自社独自に定める保険金計算基準です。各保険会社によって異なりますが、だいたいの相場があり、概ね自賠責保険の基準に少し上乗せした数字となるケースが多いでしょう。
ただし任意保険基準では入院すると通院時より慰謝料額が高額になる傾向があるので、入院が必要になった事案では自賠責基準と差が出る可能性があります。
いずれにしても弁護士基準の金額には遠く及ばないケースが多数です。

慰謝料の基準

交通事故でなるべく高額な慰謝料を獲得するには、弁護士基準で計算することが重要といえるでしょう。

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後遺障害の保険金

交通事故に遭うと、さまざまな後遺症が残ってしまう方も多数おられます。
たとえば足が動かなくなった、視力や聴力が低下した、麻痺が残った、顔面に大きな傷跡が残ったなどの症状があります。

後遺症が残って「後遺障害」として認められると、各種の保険金が支払われます。
以下では後遺障害が残ったときの保険金一覧といくら払われるのかをみてみましょう。

後遺障害の保険金一覧

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残ったことによって労働能力が低下し、得られなくなってしまった収入に相当する賠償金です。
後遺障害が残ると体が不自由になるので、それまでのようには働けなくなるでしょう。生涯収入が大きく低下すると考えられます。そこでその損失を「後遺障害逸失利益」として相手へ請求できるのです。
後遺障害逸失利益の金額は、認定された後遺障害の「等級」、被害者の収入や年齢によって変わってきます。

  • 後遺障害の等級とは

後遺障害の等級とは、後遺障害の程度に応じてつけられるランクのようなもので、等級が高いほど重症を意味します。14段階となっており、1級がもっとも重症で14級がもっとも軽症のケースです。後遺障害の等級が上がったら「労働能力喪失率(後遺障害によってどの程度働けなくなったか)」が上がるので逸失利益も高額になります。

後遺障害の等級労働能力喪失率
1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%
参考 労働能力喪失率の表

具体的な後遺障害逸失利益の金額や相場について

後遺障害逸失利益の金額は人によるので、一律の数字を示せません。しかし、基本的には、以下の計算式で計算されます。

基礎年収 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間 × ライプニッツ係数

基本的には、認定等級が高い重症の場合、収入の高い方や若くて長い年数働ける方の場合に逸失利益の金額が上がります。
たとえば後遺障害1~3級の場合、1億円を超える後遺障害逸失利益が発生するケースも決して珍しくありません。
一方で、後遺障害14級9号の場合には、逸失利益は平均的な収入であれば150万円以下になるのが一般的です。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことによって被害者が受けた精神的苦痛に対する賠償金です。
事故によって後遺障害が残ると、被害者は日常生活や仕事上でも体を自由に動かせなくなり大変な精神的苦痛を感じるでしょう。そこで後遺障害慰謝料を請求できるのです。
後遺障害慰謝料の金額も賠償金の計算基準によって変わってきます。
以下では自賠責基準と弁護士基準における金額や相場を示します。

等級弁護士・裁判基準自賠責基準
1級2800万円1150万円(要介護1650万円)
2級2370万円998万円(要介護1203万円)
3級1990万円861万円
4級1670万円737万円
5級1400万円618万円
6級1180万円512万円
7級1000万円419万円
8級830万円331万円
9級690万円249万円
10級550万円190万円
11級420万円136万円
12級290万円94万円
13級180万円57万円
14級110万円32万円

自賠責基準の1、2級には「要介護の後遺障害」があります。1級や2級は重度の脊髄損傷で寝たきりになった場合などが該当します。要介護の後遺障害となると一般的な後遺障害のケースよりも慰謝料額が上がります。
任意保険基準は各保険会社によって異なり数字が公表されていないのでここには示せません。ただし実際には自賠責基準に多少上乗せした程度となるケースが多いでしょう。
最も高額になるのは弁護士基準です。弁護士基準で後遺障害慰謝料を計算すると、他の基準の2~3倍程度になるケースが多数となっています。
正当な金額の後遺障害慰謝料を受け取るには弁護士基準で後遺障害慰謝料を計算する必要があるといえるでしょう。

装具・器具購入費

交通事故で後遺障害が残ったら、さまざまな器具や装具が必要となるものです。
たとえばコンタクトレンズや松葉杖、車いすなどを購入しなければなりません。こういった器具や装具も事故がなければ不要だった費用なので、損害として保険会社へ請求できます。

家屋・自動車等改造費

後遺障害が残って障がい者となると、家屋や自動車の改造が必要となるケースも少なくありません。たとえば自宅をバリアフリーにしたりトイレやお風呂のリフォームが必要になったりするでしょう。
家屋や自動車の改造費用についても必要性があれば相当な限度で保険会社へ請求できます。

将来介護費

交通事故で重度な後遺障害が残ると被害者には介護が必要になる可能性があります。
その場合、生涯に渡る介護費用を相手に請求できます。
介護費用は「親族が介護するか専門の介護士に依頼するか」で金額が異なります。
親族の場合には1日あたり8000円程度の介護費用を請求でき、専門の介護士の場合には実費相当となります。
親族が介護する場合、自宅介護が前提となるので自宅の改装費用も同時に認められるケースが多く、金額にすると1億円を超える場合も珍しくありません。
ただし親族がずっと介護し続けないといけないので負担は重くなります。

死亡についての保険金

被害者が交通事故で死亡した場合の保険金の種類や相場は以下のとおりです。

死亡についての保険金

死亡逸失利益

死亡逸失利益は、被害者が死亡したときに請求できる逸失利益です。
被害者が死亡すると一切働けなくなるので、逸失利益(本来なら得られたはずの収入)が発生します。よって死亡した場合にも後遺障害が残ったケースのように逸失利益を損害として請求できるのです。
ただし被害者が死亡すると生活費がかからなくなるので、生活費割合は控除されます。
死亡逸失利益の金額は、被害者の年齢が若い場合や被害者の年収が高かった場合などに高額になる傾向があります。1億円を超える可能性もある高額な保険金の項目なので、正しく計算しましょう。

死亡慰謝料

死亡慰謝料は、被害者が死亡したことによって被害者や親族が受ける精神的苦痛への賠償金です。
被害者が死亡すると、被害者自身が強い精神的苦痛を受けて慰謝料が発生し、遺族へ引き継がれると考えられています。また遺族自身も被害者を失って大きな精神的苦痛を受けるでしょうから遺族固有の慰謝料も認められます。
死亡慰謝料についても各基準によって金額が異なるので、それぞれ見てみましょう。

自賠責基準の場合

自賠責基準の場合、本人の慰謝料と遺族の慰謝料に分けて計算します。
被害者本人の慰謝料は一律400万円です。
遺族の慰謝料は、人数や被扶養者(被害者によって扶養されていた人)の有無によって異なります。

被扶養者なし被扶養者あり
遺族が1人550万円750万円
遺族が2人650万円850万円
遺族が3人750万円950万円

自賠責基準の場合、死亡慰謝料は最高でも1350万円です。

弁護士基準の場合

弁護士基準の場合には被害者自身の慰謝料と遺族の慰謝料を分けて計算しません。
合計額の相場を基準として個別事情を斟酌して算定します。
具体的には以下の金額となります。

  • 被害者が一家の支柱の場合…2800万円
  • 母親、配偶者の場合…2500万円
  • その他のケース(独身者や子どもなど)2000万円~2500万円

任意保険基準の場合

任意保険基準は対外的に発表されていませんが、自賠責基準より高額で弁護士基準より低くなるケースがほとんどです。
弁護士基準と比べると1000万円以上低くなるケースも少なくありません。
死亡した場合には、必ず弁護士基準で慰謝料を計算して保険会社へ請求すべきといえます。

葬儀費用

事故で被害者が死亡すると葬儀費用も払われますが、葬儀費用についても各基準によって金額が変わります。
自賠責基準の場合には葬儀費用は100万円です。
弁護士基準の場合には150万円までであれば支払ってもらえて、必要性があれば200万円程度の葬儀費用を請求できるケースもあります。
葬儀費用の点でも弁護士基準が被害者にとって最も有利になります。

交通事故の保険金はいくらもらえるのか?

では、交通事故の保険金は、具体的にいくらもらえるのでしょうか?

実は上記でご説明した損害費目の合計額が必ず請求できるとは限りません。「過失相殺」や「損益相殺」によって減額される可能性があるからです。以下では交通事故の保険金がいくら支払われるのか、計算の手順をお知らせします。

損害の合計額から過失相殺、損益相殺された金額を差し引く

交通事故の保険金を計算するときには、①損害を合計した上で②「過失相殺」や「損益相殺」を適用しなければなりません。
以下で、手順を見てみましょう。

損害を合計する

保険金計算の際には、まずは上記で紹介した保険金額を合計します。この時点で漏れがあると受け取れる保険金が減らされてしまうので、確実に漏れのないよう計算して足し算をしましょう。
自分では計算に自信がない場合、弁護士へ相談してみてください。

過失相殺を適用する

保険金を計算するには「過失相殺」を適用しなければなりません。
過失相殺とは、被害者にも損害発生の原因がある場合に賠償金を減額する法的なルールです。
「被害者にも過失がある以上、被害者にも損害発生についての責任を負わせるべき」という考え方からきています。たとえば被害者に3割の過失があれば、損害の合計額から3割差し引きます。
一方的な追突事故などで被害者に過失がない場合には過失相殺は行われないので、被害者は基本的に全額の賠償金を請求できます。

損益相殺を適用する

交通事故の保険金を計算する際には「損益相殺」も考慮しなければなりません。
損益相殺とは、被害者が交通事故を原因として得た利益を差し引くことをいいます。
たとえば自賠責保険や健康保険、労災保険などから補償を受け取っている場合、重ねて任意保険から保険金を受け取ると被害者は「二重取り」になって得をしてしまいます。
そこですでに受け取った利益分は損益相殺として差し引かねばなりません。
損益相殺については行われる費目と行われない費目があり、費目によって過失割合を先に適用すべきか後で適用すべきかなどの判断も変わってきます。
迷ったときには弁護士に相談して正しい計算方法を知りましょう。

具体的な保険金の計算例

交通事故の保険金がいくら支払われるのか知るために、以下では具体的な計算例を示します。

損害の合計額が5000万円、過失割合が3割、損益相殺400万円のケース

被害者が骨折して重症を負い、後遺障害が残ったために損害の合計額は5000万円となったとしましょう。
ただし事故において被害者にも3割の過失があったので、3割の過失割合を適用します。すると過失相殺後の賠償額は3500万円となります。
さらに他の保険からすでに400万円を受け取っていたため400万円の損益相殺を行います。すると被害者が最終的に受け取れる保険金額は3100万円となります。

交通事故の保険金はいつ支払われる?事故発生からの期間も確認

交通事故の保険金はいつ支払われるのでしょうか?以下ではパターンごとに保険金を受け取れる時期や交通事故発生からの期間について、みてみましょう。

示談が成立したとき

交通事故で保険金を受け取れるのは、基本的に「示談が成立したとき」です。示談までに時間がかかればその分保険金を受け取れる時期も先になります。

物損事故の場合には、比較的早期に示談を開始できるので、保険金を受け取れるまでの期間も短くなるケースが多いでしょう。だいたい1~2か月後が標準です。

人身事故で後遺障害が残らなかった事案では、治療にどのくらいかかるかで異なります。治療が早く済めば数か月、遅くなると1年以上かかる可能性もあります。

後遺障害が残ると治療にも時間がかかるので、保険金を受け取れる時期は相当先になるでしょう。最低でも半年はかかり、1年以上かかるケースも少なくありません。

死亡事故の場合、被害者が死亡してから49日の法要が終わった頃に示談交渉を開始するケースが多数です。どのくらい期間がかかるかはケースによって大きく異なります。

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調停が成立したとき

示談が決裂して調停を行った場合には、調停が成立したときに保険金を受け取れます。

民事調停は、裁判所を通す手続きですので、示談で解決するケースよりは準備の手間と時間がかかるでしょう。加害者に保険会社がついている事件では、民事調停の利用頻度はそこまで高くありません。

ADRで話し合いができたときや審査で結論が出たとき

示談が決裂してADRを利用した場合、ADRの示談あっせんで和解できたときや審査によって解決できたときに保険金が支払われます。(ADRとは、裁判所以外の第三者機関に間を取り持ってもらうことをいいます。交通事故での代表的なADRは交通事故紛争処理センターなどがあります。)

具体的にどのくらいの期間がかかるかはケースによって異なりますが、ADRは裁判より早く終わるのが通例です。

一方、示談が決裂している分、示談で解決できたケースよりは長くかかるでしょう。

訴訟で判決が出たとき

示談が決裂した場合や調停やADRでも解決できなかったときには、訴訟で解決しなければなりません。

訴訟になると、判決が出て確定したタイミングで保険金が支払われます。

訴訟には長い時間がかかるので、示談で解決できたときよりも保険金を受け取れる時期が相当遅くなってしまうでしょう。ときには1年かかる場合もあります。

ただし途中で和解が成立したら、その時点で保険金を支払ってもらえるので早めに支払いを受けられます。

人身損害と物損とでタイミングが異なる

交通事故で保険金が支払われるタイミングは、人身損害と物損とで異なります。

物損については早めに解決できるケースが多いため、物損のみ先に示談して支払われ、後に人身損害についてゆっくり話し合うのが通例です。

物損については事故後1~2か月程度で保険金が支払われても、人身損害については事故後数か月~1年以上かかるケースも少なくありません。

交通事故の保険金が支払われるまでの流れ

交通事故に遭って保険金が支払われるまでの流れを確認しましょう。

STEP1 事故現場での対応

まずは事故現場での対応をしなければなりません。

  • 警察への通報
  • けが人の救護(もしくは救護を受ける)
  • 実況見分への立会
  • 事故の相手との連絡先交換
  • 事故現場の証拠化(写真撮影やメモなど)
  • 保険会社への連絡

STEP2 車を修理に出す

車が破損した場合には、修理に出して見積もりをとりましょう。修理工場が見積もりを出せば、後は保険会社と調整して保険金額が決まります。

STEP3 完治または症状固定まで通院する

人身事故の場合、完治または症状固定まで治療を継続しなければなりません。
完治とは症状が完全に治って元通りになることです。
症状固定とはそれ以上治療を続けても状態が改善しなくなって固定してしまった状態を言います。
医師が完治または症状固定と判断するタイミングが治療を終了すべきタイミングです。
保険会社から治療の打ち切りを打診されても医師がそういった判断をしなければ治療を打ち切るべきではありません。

STEP4 示談交渉

完治または症状固定したら、示談交渉をしましょう。
示談では、損害の費目やそれぞれの賠償金の金額、過失割合などについて取り決めを行います。
ここで不利な条件で合意してしまうと、受け取れる保険金額が減額されてしまいます。
弁護士基準で慰謝料や休業損害を計算するためにも、示談交渉は弁護士へ依頼しましょう。

STEP5 示談締結と支払い

保険会社と合意ができれば示談を締結して示談書を取り交わします。
示談書を保険会社へ返送すると、速やかに保険金が指定した口座へと振り込まれます。

示談が決裂した場合

示談が決裂してしまった場合には、調停やADR、訴訟で解決しなければなりません。
これらの手続きが終了して損害金が確定すると、保険会社が保険金を支払います。

交通事故の保険金にかかる税金について

交通事故で保険金を受け取ると「税金が発生するのではないか?」と心配される方も多いでしょう。

以下で保険金と税金の関係についてご説明します。

保険金には基本的に税金がかからない

交通事故で保険金を受け取っても、基本的には税金はかかりません。
税金は、基本的に何らかの「利益」を得たときに発生するものです。

ところが交通事故の保険金は「損失の穴埋め」をするものであり、被害者は保険金を受け取っても利益を得られません。

そこで税制上、交通事故の保険金については原則として税金がかからないとされています。
高額な保険金を受け取っても税金を払う必要はないので、安心しましょう。

例外的に税金がかかるケースとは

ただし例外的に保険金に税金がかかるケースもあります。

被害者本人が存命で、自分で払わねばならないケースと被害者が死亡して遺族が払うケースがあるので、以下で分けて解説します。

本人に所得税がかかるケース

被害者本人が受け取った交通事故の保険金に税金がかかるのは、本人が事業者で保険金が「経費」に使われた場合です。

経費は本来、本人が支出すべきものです。保険金から支出されると本人に利益が生じるので、所得税がかかります。

死亡保険金の場合

死亡保険金の場合にも基本的には非課税ですが「相続税」「贈与税」「所得税」が発生する可能性もあります。

相続税が発生するケース

保険金の受取人が指定されており、指定された受取人などが保険金を受け取っても基本的に相続税はかかりません。
ただし被害者が事故後すぐに死亡せずに生存中に示談が済んで保険金を受け取ることが決まっており、その後に被害者が死亡した場合には遺族は保険金の請求権を相続したことになります。
このように、生前に保険金の支払いが確定していた場合には、相続税が発生します。

贈与税が発生する可能性のあるパターン

被害者が死亡した場合、贈与税がかかる可能性もあります。
それは「保険契約者が保険金の受取人と異なるケース」です。
被害者を被保険者として別の人が保険契約者となって掛け金を支払い、保険金の受取人を更に別の人としている場合、保険金の受取人は自分で掛け金を負担しないのに保険金を受け取れる結果になってしまいます。
そこで保険金を支払った人から贈与を受けたことになり、贈与税が発生するのです。

 母親のために父親が保険契約をして保険の掛け金を支払い、子どもが受取人となっている。母親が交通事故で死亡して子どもが保険金を受け取ると、子どもに贈与税がかかる可能性がある

所得税が発生する可能性のあるパターン

死亡保険金に所得税が発生する可能性があるのは、保険契約者(保険掛け金を負担する人)と保険金受取人が同一人物のケースです。
この場合、保険契約者は自ら保険掛け金を支払って自分で保険金を受け取っているので、一時所得または雑所得となります。

交通事故の保険金にはほとんどのケースで税金がかかりませんが、稀にかかってくるケースもあります。素人では税金がかかるかどうかの正確な判断が難しいでしょう。

税金の申告や納税にはそれぞれ期間や期限も設定されています。迷ったときには税理士に相談して正しい方法で対応しましょう。

交通事故の保険金をもらっても詐欺にはならない

交通事故で保険金を受け取ると「保険金詐欺になるのではないか?」と心配される方が少なくありません。

実際に交通事故に遭って必要な治療費などを請求するだけであれば保険金詐欺にはなりません。

以下では保険金詐欺になるのがどういったケースなのか、解説します。

保険金詐欺とは

保険金詐欺とは、「保険金をだまし取ってやろう」と考えて架空請求を行い、保険金を受けとる犯罪行為です。
保険金詐欺をすると、詐欺罪で逮捕されて立件される可能性もあります。
保険会社からは保険金の支払いを拒否されたり返還請求されたりするので、決してやってはいけません。
ただ保険金詐欺に該当するのは「保険会社をだましてやろう」と考えて虚偽の請求をする場合であり、一般的な交通事故の事案では詐欺にはなりません。
「詐欺になるのではないか?」と過剰に心配する必要はないので安心しましょう。
怖がらず、自分の権利を主張しましょう。

保険金詐欺になるパターン

交通事故を利用した保険金詐欺でよくあるパターンは以下のようなものです。

交通事故が発生していないのに事故が発生したと嘘をつく

1つは交通事故が発生していないのに交通事故を偽装するパターンです。

実際には車がぶつかっていないのに「ぶつかった」と言って保険会社に物損の保険金を請求するケース、実際には交通事故によるケガではないのに「交通事故でケガをした」と嘘をついて保険金を請求するケースなどが考えられます。

交通事故に便乗して嘘をつく

2つ目は、実際に交通事故が発生したときに便乗して嘘をつくパターンです。

実際に交通事故は起こっているのですが、受けてもない診療費を請求したり、休んでもいない休業損害を過大に請求したりするケースがあります。
ときには整骨院の先生が健康保険や保険金の水増し請求を行い、患者が巻き込まれるケースもあります。
交通事故の被害者が巻き込まれやすいのはこちらのパターンといえるでしょう。

保険金詐欺を疑われやすいケース

自分では保険金詐欺を行っていなくても、保険金詐欺を疑われやすいパターンがあります。

以下のような場合、保険会社から疑われる可能性があるので注意しましょう。

何度も繰り返して交通事故に遭い軽傷で済んでいる

何度も連続して交通事故に遭っていると、保険金詐欺を疑われる可能性があります。
特にすべて軽傷で済んでいたら、より怪しまれるでしょう。
一般的に、交通事故に遭う機会は人生においてそう何度もありません。
短期間に交通事故に遭ってすべて軽傷で済み、慰謝料や休業損害を請求していたら、保険金詐欺を疑われても仕方がない状況ともいえます。
ただ現実に運悪く交通事故に遭ってしまっているなら、保険金請求を遠慮する必要はありません。保険金の支払いを渋られたら、弁護士に相談して正当な補償を受けましょう。

交通事故の規模にしてはケガの程度が大きい

交通事故が起こると、保険会社は事故の態様について詳しく調査します。
事故の規模が小さいにもかかわらず被害者が大ケガをして通院が長引いていたら、保険会社としては「詐欺ではないか?」と怪しむこととなるでしょう。

ただ保険会社が「小さな事故」と判断しても、実際に大きなケガをしてしまうケースもあります。実際の裁判でも、事故の規模は小さくとも必ずしも身体に加わった衝撃が小さいとは限らない、という判断がされることもあります。症状があるのであれば、遠慮せずに保険金を請求しましょう。

治療が異様に長引いている

交通事故後の治療期間はだいたい相場が決まっているものです。むちうちなら1か月~半年程度、骨折なら半年から1年程度の間には治療を終了するケースが多いでしょう。
それにもかかわらず治療期間が異常に長引くと保険会社は「詐欺ではないか?」と疑いをかけます。
ただ、むちうちや骨折でも事案によっては本当に治療に日数がかかるケースもあります
保険会社をおそれて治療を早めに打ち切るべきではありません。
治療は医師が「症状固定」または「完治」と判断するまで継続すべきです。
保険会社から治療費の打ち切りを打診されたり詐欺を疑われたりしたら、早めに弁護士へ相談しましょう。

保険金詐欺を疑われた場合のリスク

保険会社から詐欺を疑われると、以下のようなリスクが発生します。

保険金を支払ってもらえない

一般的な交通事故の事案では、加害者が任意保険に入っていたら任意保険が保険金を支払ってくれます。治療費や休業損害、後遺障害に対する補償などです。
被害者の自己負担になることはありません。
しかし保険金詐欺が疑われると、保険会社は保険金の支払いを拒絶します。治療費などは被害者が自分で負担しなければならないリスクが発生するでしょう。

示談に応じてもらえない

一般的な交通事故のケースでは、事故が発生すると被害者と保険会社の間で連絡をとりあって示談交渉を開始するものです。
話し合いができれば示談金(保険金)を支払ってもらえます。
ところが保険金詐欺を疑われると、事故当初の段階から示談交渉を含めたやり取りを拒否されます。いきなり弁護士をつけられて内容証明郵便で受任通知が送られてくるケースも少なくありません。

治療費を支払ってもらえない

一般的な交通事故の場合、事故後暫くの間の治療費は保険会社が病院へ支払ってくれます。被害者が窓口で支払いをする必要はありません。
ところが保険金詐欺を疑われたら、保険会社は病院へ治療費を支払わないので、被害者が自分で窓口にて払う必要があります。

刑事告訴されることも

保険金詐欺は詐欺罪という犯罪が成立する悪質な行為です。保険会社が「悪質な犯罪者」と考えると、刑事告訴されたり被害届を出されたりして刑事事件になってしまうおそれもあります。
なお詐欺罪の刑罰は10年以下の懲役であり、決して軽くはありません。

保険金詐欺を疑われたときの対処方法

保険会社から保険金詐欺を疑われたら、早急に弁護士へ相談しましょう。

弁護士をつけて示談交渉を進めると、保険金詐欺事案ではないことが明らかになる可能性もあります。

詐欺が保険会社の勘違いである場合や、どうしても保険会社が納得しなければ訴訟を起こして保険金の請求手続きを進めると良いでしょう。

最終的には詐欺かどうかを裁判所が判断します。弁護士に依頼して適切に手続きを進めれば、詐欺ではない事実が明らかになるでしょう。

交通事故を依頼する弁護士の選び方

交通事故に対応するには、弁護士に依頼する必要性が高くなります。

まず弁護士に示談交渉を依頼しないと高額な弁護士基準が適用されません。低額な任意保険基準が適用されて、保険金が目減りしてしまいます。

弁護士に示談交渉を任せれば被害者に手間がかからず時間の節約にもなるでしょう。示談交渉は大変なストレスとなりますが、弁護士に任せれば精神的な負担も軽くなります。

ただし示談交渉を依頼する弁護士は誰でも良いわけではありません。親身になってくれて交通事故に力を入れている弁護士に依頼すべきです。

弁護士の中にも交通事故に注力していない人はたくさんいます。そういった人に対応を依頼しても、ベストな対応は期待しにくいでしょう。普段から交通事故案件に積極的に取り組み、これまでの解決実績も高い弁護士に相談するのが得策です。

横浜クレヨン法律事務所では設立以来、交通事故案件に非常に力を入れて取り組んで来ました。これまで保険会社が提示した金額を飛躍的に増額させて示談を成立させたり高い等級の後遺障害認定を受けて保険金を大幅に増額させたりした実績が多数あります。

横浜近辺で交通事故の保険金のことでお悩みの方、示談交渉を依頼されたい方はぜひとも一度、ご相談ください。