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物損の示談における過失割合の合意は、人損の過失割合に影響するのか

2021-03-28

物損の示談における過失割合の合意は、人損の過失割合に影響するのか

 

交通事故(人身事故)の示談では、「物損」と「人身損害」について別個に示談が行われるのが一般的です。

 

通常は、先に損害額や内容を確定しやすい「物損」について示談契約を締結し、その後「症状固定」して「人身損害」が明らかになってから、人身損害についての示談を行う流れになるでしょう。

 

そうすると「物損の示談」において先に当事者が「過失割合」について合意することになります。この「物損における過失割合についての合意」は後の「人身損害についての示談」に影響するのでしょうか?

 

以下では物損の示談における過失割合の合意が人身損害の示談の過失割合を拘束するのか、裁判官の見解を踏まえてご説明します。

 

1.物損の示談における過失割合は人身損害に影響しない

1つの交通事故であっても、先に物損事故の示談で確定された過失割合は、後の人身損害の示談の過失割合に影響しないと考えられています。(交通事故の赤い本(平成8年度版 過失相殺率等の示談の法的拘束力 河田泰常裁判官(42期)144ないし149ページ)。

 

理由は以下のとおりです。

 

1-1.物損の示談は物損限りという認識がある

そもそも交通事故の示談実務においては「物損」と「人身損害」について別々の担当者が対応しており、物損と人身損害の示談は「別もの」と考えられています。

当事者の認識としても、「物損の示談は物損限り」と解するのが合理的といえるでしょう。

物損の示談における過失割合を人身損害の示談に適用すると、当事者の意思に反する結果になりかねません。

 

1-2.人身損害については示談の対象になっていない

物損の示談において議論されるのは、車の修理費用や代車費用などの物的損害のみです。この時点では人身損害について損害の費目も含めて明らかになっておらず、人損の内容や金額はまったく話し合いの議題に挙がっていないでしょう。

 

話し合ってもいない人身損害について、物損の示談の合意による拘束力を認めるのは困難であり不合理と考えられます。

 

1-3.裁判外の自白には法的拘束力がない

物損と人身損害の示談における過失割合の問題については、私は以下のように考えています。

 

物損の示談における過失割合の合意は、一種の「裁判所外の自白」といえます。裁判所外の自白とは、私文書や陳述書などにおいて当事者が裁判と無関係に自白することです。

裁判外の自白には裁判内でされる自白と異なり、自白の効力が及びません。裁判上の自白が成立すると裁判所は「その事実をあるもの」と認定しますが、裁判外の自白にはそういった効果が認められないのです。

 

人身損害の示談に先立つ物損の示談における過失割合の合意は、一種の「裁判外の自白」といえます。ここには拘束力がないので、たとえ以前に物損の示談において過失割合の合意をしていても、人身損害の示談の内容を拘束しません。事故態様を推認させる状況証拠の一つとして斟酌されるに過ぎないと考えるべきでしょう。

(※ 専門的な話をすると、過失及び過失相殺の評価根拠(障害)事実は弁論主義が及ぶ主要事実ですが、裁判外で過失及び過失相殺の評価根拠(障害)事実についてなされた自白は、評価根拠(障害)事実についての裁判外の自白になりますので、評価根拠(障害)事実を推認させる間接事実の一つとなり、示談書はその証拠となります。)

 

 

2.人身損害の一部について示談が行われた場合

交通事故では、人身損害の一部について先に示談を行い、その後発覚した後遺障害について後日に別途示談するケースもあります。

 

このように先に人身損害の一部について示談した場合、先の示談における過失割合の合意は後の後遺障害の示談に影響するのでしょうか?

 

結論的には、「否定される可能性が高い」と考えられています。

なぜなら先に行われた示談では、後の後遺障害の損害発生やその内容、金額などを確定できていないためです。先の示談の段階では後の後遺障害が明らかになっておらず、示談の際にまったく議題にのぼっていません。金額的にも、後遺障害にもとづく損害額は先の示談における金額より相当高額になる可能性が高いでしょう。

こういったケースにおいて従前の合意の過失割合に後の示談への拘束力を認めると、加害者へ予期せぬ不利益を与えてしまうおそれが高まります。

 

そこで基本的には先に人身損害の一部について行った示談の過失割合は後の後遺障害に関する示談の過失割合を拘束しないと考えるべきです。

 

2-1.例外的に先の示談の効力が事実上効力を有する場合

ただし同じ人身損害についての示談である以上、先の合意による拘束力が認められる場合が全くないとはいえません。たとえば以下のような事情があれば、事実認定上、同様の過失割合になる可能性が高いケースも考えられます。

 

  • 後に発生した後遺障害が当初の示談時に予測可能な範囲内におさまっていた
  • 後遺障害が軽度、損害額が小さい
  • 先の示談後すぐに後遺障害が発生した

 

こういった事情を斟酌し、後に発覚した後遺障害の示談と同様の過失割合で判断すべき判断されれば、後の後遺障害の損害についても当初の過失相殺率によって減額されると考えられます。

 

2-2.そもそも合意が成立していないと判断される可能性

人身損害の一部についてのみ示談して、後にあまりに重大な後遺障害が発生した場合、状況によっては「そもそも当初の示談は一部のみに及び、後遺障害部分については成立していない(示談の効果が及んでいない)」ないし、錯誤無効が成立する可能性もあります。

そういったケースでは、後遺障害部分について改めて過失割合を決定し、過失相殺を適用することになるでしょう。

まとめ

以上、交通事故の赤い本(平成8年版)における裁判官の見解をもとに解説しました。

交通事故では、物損と人身損害など1つの事故について複数回にわたって示談が行われるケースが少なくありません。基本的には先に合意した過失割合が後の示談に影響を及ぼす可能性は低いといえるでしょう。

ただし先の示談の際、後の損害についてもある程度予測可能で拘束力を認めても不当とはいえない場合、裁判上の和解が成立した場合などには後の示談にも拘束力が及ぶ可能性があります。今後、交通事故事件処理を行う際の参考にしてみてください。

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