2023年1月18日 更新

著者情報

弁護士 鈴木 晶

一般の方々に、わかりやすく法律の知識をお届けしております。
難しい法律用語を、法律を知らない人でも分かるような記事の作成を心がけています。
交通事故に関する様々な悩みを持つ方々のために、当ホームページは有益な情報を提供いたします。

交通事故に遭うと、高次脳機能障害となってしまう被害者の方が少なくありません

  • 交通事故後、高次脳機能障害となって仕事もできなくなった
  • 交通事故で高次脳機能障害となり、日常生活もまともに送れない
  • 高次脳機能障害の場合、どの程度の慰謝料を払ってもらえるのか?

高次脳機能障害は非常に対応の難しい症状で、ご本人もご家族様も苦しまれるケースが多数あります。

高次脳機能障害になったら後遺障害等級認定を受けられる可能性がありますが、そのためにはいくつかの条件を満たさなければなりません。

この記事では高次脳機能障害になった方が十分な補償を受けるため、症状や後遺障害の等級、後遺障害認定を受けるためのポイントなどを弁護士が解説します。

交通事故で高次脳機能障害となられた方やご家族さまはぜひ参考にしてください。

この記事でわかること

  • 高次脳機能障害とはなにか
  • 高次脳機能障害の症状、疾病やケガ
  • 高次脳機能障害になった場合の治療やリハビリ
  • 治療から症状固定時期までの期間や対応の注意点
  • 高次脳機能障害で認定される後遺障害の等級
  • 高次脳機能障害で後遺障害等級が認められた場合の慰謝料
  • 高次脳機能障害で加害者へ請求できる賠償金の種類
  • 高次脳機能障害で後遺障害等級認定を受けるためのポイント

目次

1.高次脳機能障害とは

高次脳機能障害とは、交通事故などの脳の外傷、脳梗塞や脳出血、脳炎などの症状が原因となり、脳が損傷を受けたことによって生じる認知機能の障害です。
認知障害なので、いわゆる認知症と似た症状が発生するケースが多数となっています。精神症状が出るので、周囲からすると「事故後に人格が変わった」ように感じられる場合も少なくありません。

交通事故後で頭部を受傷した後に、被害者の物忘れがひどくなったりこれまで普通にできていたことができなくなったりしたら、高次脳機能障害を疑ってみましょう。

2.高次脳機能障害典型的な症状

高次脳機能障害の典型的な症状は以下のようなものです。

2-1.記憶障害

記憶しにくくなったり過去の物事を忘れてしまったりする障害です。
以下のような症状が典型です。

  • 事故前の記憶を失ってしまう
  • 新しいことを覚えられない
  • 日時や場所がわからない(見当識の障害)
  • 情報の入手元がわからない(出典健忘)
  • 妄想や嘘が多くなる

2-2.注意障害

注意障害とは、注意力や集中力が低下する障害です。物事に長期間集中できなくなります。
具体的には以下のような症状が出ます。

  • 落ち着きがない
  • 集中力が続かない
  • ミスが多くなる
  • マルチタスクができない
  • 疲れやすい

2-3.遂行機能障害

遂行機能障害とは、目標設定から達成までを計画したり、計画に沿って行動したりするのが難しくなる障害です。

典型的には以下のような症状が出ます。

  • 計画を立てられない
  • 計画通りに物事を進められない
  • 段取りよく物事をすすめようとしても、考えがまとまらない
  • 指示を受けないと作業できない
  • 物事に優先順位をつけられない

2-4.言語障害

言語障害は、言葉によって考える力や、言葉を発する機能に起こる障害です。
「失語症」と「構音障害」の2種類があります。
失語症は言葉を発せられてもうまく話せない症状、構音障害は会話などの内容は認識できても麻痺によってろれつが回らない症状をいいます。

言語障害の典型的な症状は、以下のとおりです。

  • 言葉がうまく出てこない
  • 会話のキャッチボールができない
  • 相手の言うことを理解できない
  • 意図した言葉と異なる言葉が出てしまう
  • 言っていることが支離滅裂
  • 文字を読むことできても意味がわからないい
  • 書きたい文字とは違う文字を書いてしまう

2-5.失行症

失行症とは、これまで普通にできていた日常の動作をできなくなる障害です。

具体的には以下のような症状が出ます。

  • ボタンを止められない
  • 衣服の着脱や歯磨きなどの日常の動作ができない
  • 指示通りに行動できない

2-6.失認症

失認症とは、ものごとを認識、理解するのが難しくなる障害です。

以下のような症状が出るケースが多数です。

  • 知っている人の顔を見ても誰かわからない
  • 見慣れたものを見ても何か認識できない
  • 歩きなれた道なのに迷ってしまう
  • 音を聞いても何の音かわからない
  • よく知っているはずの物を触っても何かわからない

2-7.社会行動障害

社会行動障害とは、感情のコントロールが難しくなったり状況に応じた行動ができなくなったりして対人関係や社会生活に支障が生じる障害です。

以下のような症状が典型です。

  • 怒りっぽくなる、暴力的になる
  • あつかましくなる
  • 金遣いが荒くなる
  • 空気が読めない
  • 意欲が低下する、うつっぽくなる

2-8.半側空間無視

半側空間無視とは、空間のうち半分を認識できなくなる障害をいいます。
向かって左側を認識できなくなるケースが比較的多いとされます。

以下のような症状が出るケースが多数です。

  • 片側の食事を残してしまう
  • 片側のかべにぶつかる
  • 自分からみて片側にいる人を無視してしまう

3.高次脳機能障害となる疾病やケガについて

交通事故では以下のような傷病となった場合、高次脳機能障害を発症する可能性があります。

  • 脳血管障害…脳梗塞や脳出血、くも膜下出血など
  • 脳外傷…脳挫傷や外傷性脳損傷など

びまん性軸索損傷、脳炎や低酸素症などによって高次脳機能障害を発症するケースもあります。

交通事故で頭部を受傷して上記のような診断名がついたら、高次脳機能障害となる可能性があるので注意が必要です。

4.交通事故で高次脳機能障害になった場合の治療やリハビリ

交通事故で高次脳機能障害となった場合、まずは原因となった脳損傷を治療しなければなりません。脳出血や脳挫傷などの症状があると命に関わるケースもあるので、入通院によってしっかり治療を受けましょう。

4-1.リハビリ

高次脳機能障害の症状に対しては、リハビリによって対処するケースがほとんどです。
リハビリの内容は、その方にどのような症状が出ているかによって異なります。受傷後1年程度はリハビリの効果が出やすいといわれており、治療は長期に及ぶケースが多数です。
まずは生活訓練プログラムを受けて、次に職能訓練プログラムを受け、包括的にリハビリテーションを実施するのが望ましいといわれています。

4-2.薬物治療

症状によっては薬物治療が並行的に行われるケースもあります。
たとえば情動コントロール障害がある場合(攻撃性が高い場合、興奮しやすい場合など)には、否定型精神病薬や抗てんかん薬(カルバマゼピンやバルプロ酸)が処方されるケースがあります。
注意障害がある場合にはメチルフェニデート、記憶障害がある場合にはコリンエステラーゼ阻害薬が有効とされる報告があります。
うつ症状が出ている場合、セルトラリンが有効であるといわれています。

治療方針については専門医と相談しながら、なるべく後遺症を残さないように的確な治療を実施してもらいましょう。

5.治療から症状固定時期までの期間や対応の注意点

高次脳機能障害になった場合、症状固定までどのくらいかかるのでしょうか?
一般的には1年程度で症状固定するケースが多数です。
成人の被害者の場合、事故直後の急性期には症状の回復が比較的早く進みます。ただしそれ以降は回復速度が遅くなり、リハビリを辛抱強く継続する必要があります。

子どもの場合、高次脳機能障害が回復するに際しての環境変化などによる影響に配慮しなければなりません。たとえば学童期に学校での集団生活へ適応するのが困難となった場合、成人後の社会生活や就労能力に影響を及ぼしてしまう可能性があります。そこで学校などの社会的活動に適応するため、充分な配慮や検討が必要となります。そのため症状固定までの期間は比較的長くなりがちです。

6.高次脳機能障害で後遺障害認定される要件

交通事故で高次脳機能障害となると、後遺障害として認定される可能性があります。
ただし後遺障害等級認定されるには、自賠責で高次脳機能障害と認定されるための一定の要件を満たさねばなりません。以下では高次脳機能障害で後遺障害等級認定される3つの要件について、みてみましょう。

6-1.脳損傷を確認できること

まずは医学的に高次脳機能障害の原因となる脳損傷を確認できなければなりません。たとえば以下のような診断名がついている必要があります。

  • 外傷性くも膜下出血
  • 急性硬膜下血腫
  • 脳挫傷
  • びまん性軸索損傷

こうした症状の存在については、MRIやCTなどの画像で証明しなければなりません。
事故直後から継続的に画像撮影していないと証明が難しくなってしまうケースもあるので、交通事故で頭部を受傷したら、すぐにMRIなどを撮影して記録を残すべきです。

6-2.意識障害があること

脳外傷によって高次脳機能障害となったかどうかを判定するためには、受傷後の「意識障害」の有無や程度・長さが極めて重要です。意識障害とは、事故後に意識を失ったり健忘状態が継続したりすることです。意識障害が発生していなければ、高次脳機能障害による後遺障害等級認定は難しくなる可能性が高まります。

一般的に受傷後の意識障害の程度が重く、長時間継続すれば重度な高次脳機能障害になりやすいと考えられています。たとえば脳外傷直後に意識障害となり、6時間程度以上持続したらほぼ永続的な高次脳機能障害が残る可能性が高いでしょう。

自賠責保険では、受傷直後の意識障害が一定基準を満たす場合には全件において、高次脳機能障害の認定審査を行われています。(ただしこれはあくまで「審査を実施する基準」であって、あてはまるからといって必ず後遺障害等級認定を受けられるとは限りません)。

意識障害の基準

具体的な審査基準は以下のとおりです。

  • 当初の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態)が6時間以上継続した
  • 健忘または軽度意識障害1週間以上続いている

上記のどちらかを満たせば、高次脳機能障害の認定検査が実施されます。

意識障害を確認する方法

交通事故後、意識障害がどの程度発生したかは資料によって証明しなければなりません。具体的には救急搬送されたときの医療記録が重要なポイントになります。場合によっては、救急搬送時に作成された救急隊の記録の確認が必要になる場合もあります。

なお意識障害の程度をはかる基準としては、JCS(ジャパンコーマスケール)やGCS(グラスゴーコーマスケール)とよばれる基準が使用されています。

※重要ポイント

高次脳機能障害における等級認定において、もっとも重要な要件は意識障害の要件です。高次脳機能障害が生じるには、脳へのダメージがあったことを立証しなければなりませんが、脳への具体的なダメージはびまん性軸索損傷といった明確なものを除いて、画像よりも事故後の意識障害の程度の方が医学上の立証の上で重要度が高いからです。

また、軽度な意識障害は、治療の必要性から診療録(カルテ)に記載されない場合も多く、「意識障害なし」と扱われる結果、画像所見が無い場合には、後遺障害等級非該当という結果になってしまうのです。

ご家族は、事故直後から1週間程度、どんな小さな意識障害(記憶障害も含む)も見逃さないようにして、医師に申告するようにしてください。

「頭部外傷後の意識障害についての所見」について

実際に高次脳機能障害で後遺障害等級認定を申請する際には、医師に「頭部外傷後の意識障害についての所見」という文書を作成してもらわねばなりません。ここには交通事故後の意識障害についての医学的な考察内容が書かれています。
後遺障害等級認定を申請する際には、頭部外傷後の意識障害についての所見の用紙を医師に渡して作成を依頼しましょう。

6-3.認知障害や行動障害、人格変化の症状があること

3つ目に、被害者本人に認知障害や行動障害、人格変化などの精神症状が出ている必要があります。
これらの症状については、神経心理学的検査、家族や友人などによる日常生活の報告書などによって証明しなければなりません。

どのような症状がどの程度出ているかにより、認定される高次脳機能障害の等級が変わってきます。

日常生活報告書やその他の資料について

交通事故後、高次脳機能障害で後遺障害等級認定を受けたい場合、ご家族などが「日常生活報告書」を作成して自賠責保険へ提出しなければなりません。

日常生活報告書には、具体的なエピソードによって日常生活でどのような支障がどの程度生じているのか、事故前後で被害者にどのような変化があったのなどを詳しく記載します。

また学生の場合には、学校担任などから事故前後の本人の変化を聞き、報告書や陳述書を提出することも検討しましょう。

学校での通知表や、仕事の業務実績や評価書などによって、事故前後で成績や実績が悪化していることがわかればそういったものも提出します。

神経系統の障害に関する医学的所見について

高次脳機能障害で後遺障害等級認定の申請を行う際には、被害者は自賠責保険へ「神経系統の障害に関する医学的所見」という書類を提出しなければなりません。

これは、医師が医学的な観点から精神症状や被害者の状態について記録した資料です。

後遺障害等級認定の申請を出すとき、医師に書類作成を依頼する必要があります。

ただ医師は被害者とともに暮らしているわけではないので、被害者の正確な状態を知ることはできません。ご本人やご家族から状況を正確に伝える必要があります。

7.高次脳機能障害で認定される後遺障害の等級

高次脳機能障害と認定されると、具体的な後遺障害の等級がつけられます。認定される可能性のある後遺障害の等級は、以下の6種類です。

【高次脳機能障害で認定される後遺障害の等級と認定基準や状態】

等級後遺障害認定基準具体的な状態
1級神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの神経系統の機能または精神に著しい障害が残り、就労が不可能、日常生活でも常に介護が必要。
身体機能は残っていても高度の痴呆があるため、生活維持に必要な身の回りの動作に全面的介護を要する。
2級神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの神経系統の機能または精神に著しい障害が残り、食事や入浴、排せつなど日常生活の中で随時介護が必要。
判断力の低下や情緒の不安定などから随時周りの看視・声掛けが必要な場合も含む。
著しい判断能力の低下や情動の不安定などのため1人で外出できず、日常の生活範囲が自宅内に限定されている。身体的動作には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや監視を欠かせない。
3級神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの自宅周辺を1人で外出できるなど、日常生活の範囲は自宅に限定されていない。家族からの声掛けや介助がなくても日常の動作はできる。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があり、一般の仕事は全くできないか、困難な状態。
5級神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの神経系統の機能または精神に著しい障害が残り、軽易な就労以外は困難。
指示を受ければ1人でできる作業もある。
一般的な仕事を維持できるが、手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどの問題もあり一般人とは同等の作業をするのが難しい。
7級神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの神経系統の機能または精神に著しい障害が残り、軽易な就労以外は困難。
指示を受ければ1人でできる作業もある。
一般的な仕事を維持できるが、手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどの問題もあり一般人とは同等の作業をするのが難しい。
9級神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの神経系統の機能または精神に著しい障害が残り、軽易な仕事など就労できる仕事に制限がある。
一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残っているために作業効率や作業能力などに問題がある。

8.高次脳機能障害で後遺障害等級が認められた場合の慰謝料

交通事故で高次脳機能障害となって後遺障害等級認定を受けられた場合、後遺障害慰謝料を請求できます。後遺障害慰謝料とは、交通事故で後遺障害が残ったことによって受ける精神的苦痛に対する損害賠償金です。

後遺障害慰謝料の金額は、認定された後遺障害の等級によって大きく変わってきます。
また賠償金の計算基準によっても支払われる慰謝料の金額が変わります。
以下では「弁護士基準」と「自賠責基準」による後遺障害慰謝料の相場や支払基準を示します。

弁護士基準は弁護士や裁判所が適用する法的な基準、自賠責基準は自賠責保険が慰謝料を計算するときに適用する基準です。

交通事故の賠償金計算基準には3種類がありますが、弁護士基準は3種類の中でもっとも高額になります。自賠責基準は自賠責保険が保険金を計算する際に適用する基準です。金額的には3つの基準の中でもっとも低額です。

被害者が任意保険会社と交渉する場合には、任意保険会社が設定した任意保険基準(自賠責基準に近い金額となります)が適用されます。すると、弁護士基準よりは大幅に金額を下げられてしまいます。等級にもよりますが、2分の1~3分の1程度になってしまうケースも少なくありません。

被害者が適正な後遺障害慰謝料を受け取るには、保険会社からの提示額をそのまま受諾せず、弁護士に示談交渉を依頼する必要があるといえるでしょう。
弁護士が示談交渉に対応する場合、高額な弁護士基準が適用されるので被害者が自分で示談交渉するよりも慰謝料額が高額になります。また弁護士には後遺障害等級認定の手続きも依頼できます。

高次脳機能障害で後遺症が残った場合には、できるだけ早めに弁護士へ後遺障害等級認定や示談交渉の手続きを依頼すると良いでしょう。

9.高次脳機能障害では「時効」が問題になりやすい

交通事故で高次脳機能障害となった場合、「損害賠償請求権の時効」が問題になりやすいので注意が必要です。
時効が成立すると、高額な慰謝料や逸失利益が発生していても一切請求できなくなってしまう可能性があります。

9-1.交通事故の賠償金の時効

交通事故の損害賠償請求権の時効期間は以下のとおりです。

  • 交通事故の翌日から5年間
  • 交通事故で後遺障害が残った場合、後遺障害部分については症状固定日の翌日から5年間

交通事故の賠償金請求は、上記の期間内に行わればなりません。

9-2.高次脳機能障害で症状固定するまでには時間がかかる

高次脳機能障害の場合、すぐに症状が現れるとは限りません。またリハビリ期間も1年くらいかかり、ある程度期間をかけないと後遺障害の有無等について診断できない場合も多数あります。被害者によっては症状の自覚がないまま時間が流れ、社会生活に戻ってはじめて高次脳機能障害の症状に気づく場合も珍しくありません。
また高次脳機能障害に対応している医師も多くはありません。専門知識がない場合、医師であっても症状を見落とされる場合があり、注意が必要です。

9-3.時効の更新措置をとる

以上のように高次脳機能障害で実際に被害者が賠償金請求に動けるようになるまでには、期間がかかるケースが多々あります。
時効が成立してしまいそうな場合には時効の「更新」措置をとらねばなりません。時効の更新とは、時効の進行を止める手続きです。時効が更新されるとまた当初からの数え直しになり、必要な期間があらためて経過しないと時効が成立しなくなります。

具体的な時効更新措置としては、保険会社に債務承認書を差し入れてもらう、あるいは訴訟を起こすなどの対応をとる必要があるので、時効が気になる場合には一刻も早く弁護士へご相談ください。

10.高次脳機能障害で加害者へ請求できる賠償金の種類

交通事故で高次脳機能障害となった場合、加害者へ請求できるのは後遺障害慰謝料だけではありません。
以下のような賠償金を請求できます。

10-1.治療関係費用

交通事故で入通院治療を受けた場合、入通院治療にかかった費用を請求できます。
入院時に親族に付き添ってもらった場合には日数分の付添看護費を請求できますし、入院すれば入院雑費も発生します。通院した場合には、通院交通費も請求できます。
こうした治療関係被害者は示談時に加害者側へ請求できるので、漏れのないように計算しましょう。

10-2.休業損害

交通事故で受傷すると、しばらくは仕事ができない期間が続くでしょう。
仕事ができないとその分得られたはずの収入を得られなくなるので、休業損害を請求できます。
休業損害を請求できるのは、基本的に事故前に働いて収入を得ていた人ですが、主婦や主夫などの家事労働者にも休業損害が認められます。

10-3.器具装具の費用

交通事故で後遺障害が残ると、器具や装具が必要となるケースもあります。こういった物品にかかる費用も加害者側へ請求できます。

10-4.自宅改装費用

交通事故で高次脳機能障害になると、被害者を介護するために自宅を改装やリフォームしなければならないケースも珍しくありません。
自宅の改装やリフォームにかかった費用も、必要かつ相当な範囲内であれば加害者側へ請求できます。

10-5.介護費用

交通事故で被害者が高次脳機能障害となると、家族が常に付き添って監視などしなければならないケースもあります。
親族が介護する場合には、将来にわたる介護費用を請求できます。介護費用は1日あたり8000円程度で被害者の平均余命分請求できるので、高額になるケースが多数です。

将来介護費については、保険会社側が少なめに計算してくる場合もあるので、正確に計算して相手へ支払いを求めましょう。相手の提示額に疑問がある場合には弁護士までご相談ください。

10-6.入通院慰謝料

交通事故で入通院による治療を受けると、入通院慰謝料を請求できます。入通院慰謝料は、入通院した日数や期間に応じて払われるものであり、後遺症が残ったかどうかとは関係がありません。後遺障害慰謝料とは別に請求できます。
高次脳機能障害の場合、治療やリハビリ期間が長くなるので入通院慰謝料も高額になりやすい傾向があります。漏れのないように請求して支払いを受けましょう。

また保険会社は入通院慰謝料についても低額な保険会社基準で計算するので、被害者へ提示される金額は少額となるケースが多数です。金額に疑問がある場合には、そのまま受諾せずに弁護士へ相談してみてください。

10-7.後遺障害逸失利益

交通事故で高次脳機能障害となり、後遺障害等級認定を受けた場合には「後遺障害逸失利益」も請求できます。
後遺障害逸失利益とは、交通事故で後遺障害が残ったことによって得られなくなってしまった将来の収入に対する補償です。
高次脳機能障害などの後遺障害が残ると、被害者は事故前と同じようには働けなくなってしまいますし、ときにはまったく働けなくなる方も少なくありません。
すると生涯における収入が低下するので、逸失利益として補償を請求できるのです。
後遺障害逸失利益は、通常就労可能年数分を請求できます(一般的な就労可能年齢の上限は67歳とされています)。

後遺障害逸失利益の金額は非常に高額で、人にもよりますが、後遺障害1~3級の場合などには1億円を超えるケースもみられます。
有識者の方が高次脳機能障害で後遺障害等級認定された場合、後遺障害逸失利益を正確に計算して請求する必要性が高いといえるでしょう。
保険会社の提示額に疑問がある場合やご自身の場合の正確な金額を知りたい場合、お気軽に弁護士までご相談ください。

11.高次脳機能障害で後遺障害等級認定を受けるためのポイント

交通事故で高次脳機能障害となった場合、後遺障害等級認定を受けるためにはいくつかのポイントがあります。

11-1.受傷直後~3か月程度の連続したMRI検査結果を提出する

高次脳機能障害で後遺障害認定を受けるには、脳の損傷を医学的に証明しなければなりません。特に「外傷後おおむね3ヶ月以内に完成する脳室拡大・びまん性脳委縮の画像所見」が重視される傾向にあります。そこで、自賠責へ受傷直後~3か月後までの連続したMRI検査を提出する必要性が高くなります。
他にも、被害者ごとの症状に応じた検査結果を用意・提出しなければなりません。

医学的観点から行われる検査と、後遺障害認定に必要な検査は異なるケースもあります。医師の指示によって行われる検査だけではなく、高次脳機能障害や後遺障害の手続きに詳しい弁護士に必要な検査について確認すると良いでしょう。

11-2.医師に診断書、意見書などの書類作成を依頼する

交通事故で後遺障害認定を受けるには、医師が作成する後遺障害診断書が必要となります。後遺障害診断書は後遺障害等級認定の結果を左右することもある重要書類です。医師が後遺障害診断書の書き方に慣れていない場合などには、弁護士から記載すべき時効などを伝えてもらうと良いでしょう。

また高次脳機能障害の場合、後遺障害診断書以外に医師に次のような書類も作成してもらわねばなりません。

  • 頭部外傷後の意識障害についての所見…受傷後の意識障害の有無や程度、持続時間について記載します。
  • 神経系統の障害に関する医学的意見…神経心理学検査の結果や高次脳機能障害で生じている具体的な症状を記載します。

これらの書類についても作成の際に工夫を要する場合があるので、迷ったときには弁護士へ相談しましょう。

11-3.家族や勤め先、学校教諭などに報告書を書いてもらう

高次脳機能障害の後遺障害認定では、被害者の様子を近くで見ている家族、勤務先の同僚や上司、、学校の担任や部活の顧問などによる報告も重要な資料となります。

「日常生活報告書」や「学校生活の状況報告書」を作成し、自賠責へ提出しましょう。
たとえば以下のような内容を記載します。

  • 事故前に比べて集中力が著しく落ちて、長時間は仕事や勉強を続けられなくなった
  • 事故前よりも怒りっぽくなり、周囲との関係に悪い影響が発生している
  • 事故後に忘れっぽくなり、何度同じ指示を出しても忘れてしまう、すでに終わった作業を繰り返してしまう
  • 事故後には計画通りに行動できなくなってしまった

12.高次脳機能障害になった場合にはお早めにご相談ください

交通事故で高次脳機能障害となった場合、頼れるのは弁護士です。弁護士に依頼すると以下のようなメリットがあります。

  • 後遺障害等級認定の手続きを依頼できる
  • 後遺障害等級認定を受けやすくなる/
  • 後遺障害慰謝料などの賠償金額がアップする
  • 示談交渉などの手間がはぶけて治療や日常生活、仕事に専念できる
  • ストレスが軽減される

横浜クレヨン法律事務所では交通事故の被害者さまへのサポートに力を入れて取り組んでいます。お困りの際には、お気軽にご相談ください。