交通事故は毎日のように、頻繁に起こっています。その程度は様々で、軽い物損事故だけで済むこともあれば人に怪我をさせてしまうような事故、そして死亡させてしまう事故まであります。
いずれにしろ損害が生じたのなら被害者は加害者に対し損害賠償請求をすることができます。しかし死亡事故の場合には被害者本人が手続を進めることができません。そこで遺族の方が手続を進めていくことになります。
ここではこの損害賠償請求に関する手続を含む、交通事故により被害者が亡くなった場合に遺族がすべきことをまとめています。

亡くなったことに対する手続

損害賠償請求は即日行うわけではありません。事故の状況を調べ、交渉を図るなど、ある程度の期間を要します。
これに対して事故直後から進む手続もあります。その内容を以下で見ていきましょう。

警察署や病院等で本人確認

死亡事故の場合、身元の情報は、亡くなった方の所持品から割り出されます。そこで名前、住所、連絡先などが確認された場合、管轄の警察署から連絡が入りますので警察署に行きましょう。
常に所持品から連絡先がわかるとは限らないため、直接家にやってきて伝えられることもあります。
また、事故後いったん病院に運ばれて死亡するケースもありますので、警察署ではなく病院に来るよう伝えられることもあります。

到着後は、安置室で遺体と対面します。本人に間違いがないかの確認をとられ、場合によっては事故等に関して調書が取られることもあります。

死亡届の提出

死亡届は、亡くなったことを知ってから7日以内に、死亡診断書と一緒に提出します。提出するのは「死亡した地域」「亡くなった方の本籍地」「届出人の住所地」のどれかを管轄とする市区町村の役場です。亡くなった方の住所地が届出地にあたるわけではありません。

また、亡くなったという事実を必要に応じて通知しましょう。特に葬儀に参列する関係者に対しては早めに連絡しておきましょう。その他、勤め先や学校等にも連絡をします。

葬式・納骨まで

葬式が行われるまでの期間やその内容は、地域、宗派により異なっています。交通事故による死亡であっても一般的な葬式と異なるところはありませんが、遺体の損傷が大きな場合には対面を避けるなどの措置がとられることもあります。

死亡届を提出していれば埋火葬許可証が交付されますので、火葬場に提出しましょう。埋火葬許可証に火葬終了日時の記入欄がありますので、その場で記入をしてもらいます。そしてこの許可証を墓地の管理元に提出して納骨となります。

死亡事故に対する損害賠償請求

警察署からの連絡に応じて死亡の確認をした後、「事故の状況や加害者の身元を確認する」「実況見分調書を作成してもらう」「事故や損害の調査を行う」という流れを経て損害賠償請求を行うことになります。

また、損害賠償請求の具体的な手段には「示談交渉」や「調停」「訴訟」といった手続があります。

示談交渉~訴訟までの流れ

事案にもよりますが、通常は示談交渉から始まります。
「示談」とは、被害者と加害者が個人的にやり取りをし、和解を図ることを言います。裁判所や何か機関を介することがないため、迅速に賠償請求ができますし、比較的自由な交渉ができるため上手くいけば当事者双方にとってメリットがあると言えるでしょう。
しかし相手方がこちらの要望に応えてくれるとは限らず、希望する賠償額を受け入れてもらえないこともあります。示談を成立させるには合意が必要であり、その意味では被害者や加害者という立場も関係ありません。また、弁護士に交渉をしてもらわない場合、遺族の方と加害者が直接対面して話し合わなければなりません。そうすると感情的になってしまい建設的な話し合いができない可能性も出てきますし、法律の専門家がいないことにより法的に問題のある示談内容になってしまう危険も出てきてしまいます。

ただ、交通事故の場合、加害者側が任意保険に加入しているケースも多いです。そうすると任意保険会社と被害者遺族の方が示談交渉をすることになるでしょう。この場合には、示談に関するノウハウを何も持っていない素人と、業として行っている会社とが交渉を行うことになり、遺族にとって満足のいく結果が得られにくいです。
最終的に相手方の提示してきた条件に同意をしなければ不利な条件を飲まされることはありませんので、よくわからないまま同意することのないように注意し、早期に弁護士に相談することが大切です。

示談が上手くいかなかった場合、「調停」を裁判所に申し立てることがあります。通常の裁判とは違い、厳格な手続ではないため訴訟を提起するよりは早期解決が図れます。また、調停では調停委員が立ち会って話し合いを解決していくことになるため、一方的に不利な内容を押し付けられたり感情的になって話が進まなかったり、という事態は避けやすくなるでしょう。ただし、調停であっても成立のためには当事者の合意が欠かせませんので、強く対立している場合には調停でも解決は図れません。

そこで最終的には「訴訟」で解決することになります。
判決を得るのに双方の合意は必要なく、証拠や当事者の主張などから裁判官が結論を導き出すことになります。訴訟にまで進むケースは稀ですが、訴訟だと適正な賠償額で決着させやすいというメリットがあります。他方で判決が出るまでには相当の期間を要してしまいます。1年以上かかることもありますし、非常に手間もかかってしまいます。
なお、ここで言う訴訟は民事事件に関するものであり、刑事事件とは別物です。刑事裁判は加害者の行為が罪にあたる場合に、加害者と検察という公的な立場が対立し、有罪・無罪および量刑の判断を下す手続です。そのため、制度上被害者は関与することも認められているものの、民事裁判のように当事者となって直接争うことはできません。また、刑事裁判で有罪となり罰金刑に処されることが決まったとしても、その金銭は被害者等に支払われるわけではありません。

損害賠償請求できる内容

損害賠償はあくまで発生した損害に対する賠償ですので、何の根拠もない金額を請求することはできません。遺族が提示した金額をそのまま受け入れてくれれば請求することはできますが、通常は以下の費目をそれぞれ算定し、全体の損害額を導き出します。

 治療費
 死亡逸失利益
 死亡慰謝料
 葬儀に関する費用
 遺体の処置に関する費用

死亡に至るまで、治療を要した場合にはその「治療費」が請求可能です。

「死亡逸失利益」とは、被害者が死亡しなければ将来得ることができたと想定される利益分のことです。基礎収入に、亡くなった時点からの就労可能年数等をかけ、本人の生活費等を控除して算出されます。

「死亡慰謝料」とは、死亡したことによる心身の苦痛に対する賠償金のことです。本人との関係性、事故の態様、どのような傷害を負ったのか、どのように死に至ったのか、といった事情に応じても変動し、数百万円から数千万円にも上る賠償金額となります。
なお、被害者本人とは別に遺族固有の慰謝料も観念されますが、両者は合算して検討されることもありますので留意しましょう。

葬儀に関する費用としては、「葬儀費用」のほか、「仏壇や墓碑の購入費」、「通夜に要した費用」などが含まれます。ただし香典返しは除くと考えられています。

遺体の処置に関する費用としては、「遺体の搬送料」や「解剖に係る費用」、「遺体の修復費用」などが含まれます。司法解剖であれば国の負担とされているところ、行政解剖の場合には解剖料等が発生するケースがあります。またこれに関連して死体検案書発行料も発生します。

以上の様々な損害分を加害者側に請求するには、実際に負担したことを証明できなければなりません。そのため領収書等の証憑は必ず残しておくようにしましょう。寺院等に支払った費用に関して領収書が発行されないこともありますが、事情を伝えて発行してもらうようにお願いすべきです。

相続の手続

損害賠償とは別に、相続の手続も進めていかなくてはなりません。特に相続放棄をするかどうかや相続税の申告および納税に関しては期間に制限が設けられていますので賠償請求と同時並行で進めていくことになります。

相続人となる遺族の方はとても忙しくなってしまいますので、手続に関しては弁護士に相談をして対応していくことをおすすめします。

遺言書の確認・検認

交通事故で亡くなった場合、本人が死期を予期できていないため遺言書を作成していないケースのほうが多いと思われます。しかし以降の相続手続を進めていく上では一応遺言書が作られていないかどうかを確認することが重要です。遺言書がある場合には遺産分割協議に影響してくるからです。

遺言書が見つかったとしても封を開けないように注意し、家庭裁判所に持っていきましょう。そこで検認の手続を行います。検認には、その時点における遺言書の内容を担保し、改ざん等のリスクを防ぐ役割があります。

遺産分割協議

遺言書の確認と併せて本人の財産調査も始めます。どのような財産があるのか、どれほどの財産的価値があるのか、借金などのマイナスの財産はなかったか、詳しく調査していきます。この調査結果を受けて、マイナスの財産の方が大きいことがわかったときなどには「相続放棄」を検討することになるでしょう。
相続が開始され、自らが相続人であることを知ってから3ヶ月以内に相続放棄の申述を家庭裁判所に対して行わなければなりません。何もしなければ自動的に「単純承認」したことになり、マイナスの財産も含めてすべて相続することになります。

どのような財産があるのかが把握でき、また他の相続人の確認も取れれば、遺産分割協議を始めましょう。
相続人が自分1人であればまるまる承継することになりますので遺産分割協議は不要ですが、複数人いる場合には協議が必要です。後々トラブルに発展することのないよう、遺産分割協議書も作成しておきましょう。

承継する財産が確定すれば、それぞれ名義変更をしましょう。不動産がある場合には法務局にて相続登記も行います。

相続税の申告

個人的に取得する財産が確定すれば、相続税申告に向けた手続も進めていかなくてはなりません。各種控除を考慮して、その額を上回る課税価額がなければ申告をする必要もありませんが、一定以上の財産を取得したのであれば、相続の開始を知ってから10ヶ月位以内に申告および納税をしなければなりません。

契約していたサービスの解約手続

亡くなった方の名義で契約していた各種サービスの解約も忘れないようにしましょう。特にインターネット回線の月額料やその他サブスクリプションサービスを契約している場合には気付かず料金が発生し続ける可能性がありますので要注意です。

公共料金、保険や年金等についても漏れなく解約手続を進めましょう。役所で行うものが多く、平日しか窓口が開いていないため、時間を確保してまとめて手続を行うと良いでしょう。