交通事故で後遺症が残ってしまったときの対応方法について

交通事故をきっかけに様々な問題が生じます。怪我を負ってしまうこと、経済的な損害が生じることなど色々考えられますが、後遺症が残ってしまうと長期的に悩まされることとなってしまいます。被害者のみならず被害者の家族にもその影響が及びます。
交通事故後により遺症が残ってしまうと具体的にどのような問題が生じるのか、そしてどのような対応をすべきかを解説していきますので、参考にしていただければと思います。

交通事故による後遺症の問題

交通事故では身体に受傷を負うことが多く、後遺症が発生するケースもあります。例えばむち打ち症はよくある事例ですが、軽視できる問題ではありません。なかなか治らないことも多く、長期的な痛みやしびれ、めまいといった症状に苦しむことになります。
また、脳に障害を負う事例だと、被害者の家族にも多大なストレスが生じます。

脳外傷による様々な症状の出現

特に、脳の外傷による後遺症では多様な症状が出現します。
脳のどの部位を損傷するのか、程度などにもよりますが、「麻痺」「失調」「知覚異常」「認知機能障害」「意識障害」などを同時に発現することもあります。

脳機能の障害における問題は、「本人が病状に関して理解するのが困難となり、代わりに家族が対処していかないといけない」という点にもあります。
障害の内容によっては、事故後、家族は一生にわたり介護をしていくことになります。この問題が顕在化しやすいのは「遷延性意識障害」や「高次脳機能障害」を負うケースです。

前者は一般に植物状態といわれるものです。生命を維持するのに最低限の機能ははたらいているものの、意識に関する機能が障害されている状態を指します。意識がないため生活のすべてにおいて介護を要します。症状固定後の、自宅での療養では家族の負担が膨れ上がります。例えば、痰を吸引するために付きっきりにならなければなりません。家族以外に任せるには看護師などの資格を持っている者でなくてはならず、すべてをヘルパーに任せることができないのです。

後者の高次脳機能障害は、脳に損傷を受けることで記憶障害・注意障害・社会的行動障害などを引き起こす障害です。コミュニケーションを取るのが難しくなってしまい、社会生活が困難になってしまいます。完全な回復は難しいとされ、一生にわたり支援をしていかなければなりません。

介護による家族への心身の負担

交通事故により介護を要することとなれば、被害者の家族は身体的および精神的に非常に大きな負担を負うことになります。

特に高次脳機能障害の場合、本人の問題行動を受け入れることができず、精神的に疲弊するケースが多いです。介護により精神的疲労がたまる結果、家族がうつ病になってしまうこともあります。

交通事故への対応が不十分になってしまう

被害者の方、その家族の方は、以上で説明した問題と付き合いながら損害賠償等の手続も進めていくことになります。賠償請求をしたり訴訟を提起したりといった余裕がなくなり、保険会社や加害者側の意見を受け入れるだけの対応をしてしまうケースもあります。これでは経済的な救済を十分受けることができなくなってしまいます。

後遺症が残ったときの対応

後遺症が残った場合、上の数々の問題が生じることを踏まえ、以下の対応を取ることを心掛けましょう。

弁護士に相談する

事故直後、まずすべきは弁護士への相談と事件対応の依頼をするということです。被害者本人が動けない、家族の方も余裕がないという場合には、代わりに処理を任せられるプロの存在が非常に重要です。
弁護士費用は発生しますが、損害賠償請求の実現、請求額の増額により、費用以上の効果が期待できます。

後遺障害の認定手続きを進める

交通事故をきっかけに後遺症が残った場合、その内容に応じて後遺障害等級の認定を受けることで、別途後遺症に関する経済的救済を受けることができるようになります。

認定を受けるためには事故発生直後から症状固定までの検査資料を用意しておかなければなりません。CTやMRIなどの画像検査資料のみならず、受傷当初における意識障害の様子、症状の経過その他様々な情報が審査のために重要です。
そこで、医師からはもちろん、家族や介護をしている方などにも報告書を作成してもらうなどしてより多くの資料を収集していくことになります。

各種年金の利用

後遺症が残ることにより大きな経済的負担を負うことになります。
その問題を解決するためにも、制度として用意されている経済的支援を受けるようにしましょう。

例えば公的年金納付者を対象とする「障害年金」の活用です。
国民年金に加入している期間に初診を行っており、障害等級1級・2級の状態にある場合、「障害基礎年金」の支給を受けられます。
厚生年金に加入しているのであれば、障害基礎年金に加え「障害厚生年金」の支給も受けられます。また、比較的障害の程度が軽いときでも支給をしてもらえます。

通勤途中や仕事中に事故に遭ったのなら、「労災年金」も活用します。
障害等級1~7級なら「障害年金」「障害特別支援金」「障害特別年金」が、
障害等級8~14級なら「障害一時金」「障害特別支給金」「障害特別一時金」が受け取れます。上の国民年金および厚生年金との併給も可能ですが、労災年金の受け取れる額は少なくなります。

介護料の支給を受ける

後遺症により介護を要する場合、NASVA(自動車事故対策機構)からの介護料支給が受けられるかもしれません。
NASVAでは、交通事故を原因とする脳や脊髄、胸腹部臓器への損傷により重度の後遺障害を負い、常時または随時の介護を要するときには、介護料の支給が受けられるとしています。

具体的な支給額は、月あたりの自己負担に応じて算定されます。
例えば受給資格の種別が特I種(最重度)の場合、約8万5,000円を下限、約21万円を上限に支給額が定められています。その他、I種(常時要介護)なら上限約17万円、II種(随時要介護)なら上限約8万円といった形で設定されています。

長期間、あるいは終わりなく介護が必要になるかもしれず、経済的な不安を抱いている方は利用を検討すると良いでしょう。

短期入院・短期入所費用助成制度を利用する

NASVAでは、介護料受給者に対し、短期入院・短期入所費用助成も行っています。短期の入院・入所に際しての患者移送費や室料差額負担金、食事負担金について、自己負担額の一部を助成しています。

対象者は、前項に挙げた特I種~II種に該当する方です。1回あたりの入院・入所につき、期間は原則として2日~14日。ただし入院・入所の目的がリハビリにある場合には上限が30日となります。

支給費目は以下の3つです。
1. 入退院や入退所で自己負担した移送費
2. 自己負担した室料差額や食事負担金
※1日あたりに1万円の上限あり
3. ヘルパー等の付き添いに際して自己負担した費用

これらの費目につき、年間45万円以内であって、かつ年間45日以内の範囲内で支給が行われます。

交通遺児等貸付を利用する

交通事故で重度の後遺症を負ってしまうと、そのお子さんの生活もままならなくなるおそれがあります。年齢にもよりますが子どもは自分で稼ぐことが難しいことから、NASVAでは中学校卒業までの子どもを対象に生活資金の貸付を行っています。
無利子での貸付である点メリットが大きい貸付制度ですが、交通事故によって親が亡くなった、あるいは重度の後遺障害が残っていることが条件とされています。単に後遺症があれば認められるわけでもありません。上でも紹介した後遺障害等級の認定を受けなければなりません。

貸付金額は、最初に「一時金15万5,000円」。以降は「月額2万円」または「月額1万円」を申込者が選択できるようになっています。また、まとまった資金が必要になる入学時には、小学校への入学・中学校への入学問わず希望者に対し「入学支度金4万4,000円」の貸付もしてくれます。

中学卒業の月までが対象期間であり、その期間が終了してから6ヶ月または1年が経過すると返済がスタートします。月賦また月賦・半年賦にて、原則20年以内の均等払いとなります。
ただし、高校や大学などに進学する場合には、その学校を卒業までは返還が猶予されます。

介護してくれる人がいなくなった場合に備える

後遺症を負った本人を介護する人が先になくなることも十分起こり得ます。また、被害者の親が介護をしている場合には、将来的に老齢・病気などによって介護が困難になるケースもあります。

そこでこのような状況を想定して、介護者が十分な活動をできるうちに対策を取っておくことが大切です。例えば「介護をしてくれる施設への入所準備を進めること」「生活していく上で必要な資金を確保しておくこと」「財産の管理を任せられる人を確保しておくこと」「契約等の法律行為を代わりにしてくれる人(後見人)の確保」などです。

介護者がいなくなるのは要介護者にとって死活問題です。そこで国土交通省でも障害者支援施設等への補助事業が実施されています。前もって様々な状況を想定して備えておくようにしましょう。

障害福祉サービスを利用する

介護を要する場合には、経済的な負担のみならず、精神的な負担が非常に大きな問題であることを説明しました。そのため前項までに挙げたような損害賠償の請求、介護料などの支給を受けて経済的支援を得ることも大切ですが、障害福祉サービスについても着目することが大切です。

例えば各地方公共団体から提供されているサービスとして「自立支援給付」や「地域生活支援事業」などがあります。
自立支援として、ホームヘルプや重度訪問介護などの「介護給付」、自立訓練や就労移行支援などを行う「訓練等給付」など様々な給付が用意されています。
地域生活支援としても、被害者本人やその家族などからの相談に応じるなど、種々の支援が用意されています。

また、障害の程度に応じた障害者手帳を取得することでも様々な福祉サービスを受けることができるようになります。具体的には、住宅設備の改善費の支給、車椅子などの給付、税制上の優遇、公共交通機関の割引などが受けられます。

交通事故を原因とする後遺症が残った場合、本人のみならず家族にも負担がかかってしまいます。こうした問題を解決するためには、この記事で紹介したような支援サービス等があることを知り、これらを有効活用していくことが重要です。

後遺障害の認定手続きについてはこちら【https://crayonlaw.jp/kouisyougaitoukyu-nintei/】
後遺障害の保険金額への影響はこちら【https://crayonlaw.jp/kouisyougaitoukyu-nintei/】
むちうち症の後遺障害についてはこちら【https://crayonlaw.jp/muchiuchi_disability/】