症状固定とは?判定時期やその後の手続き、注意点などを解説
交通事故、または労災などの問題で「症状固定」という言葉がよく出てきます。大きな事故により治療を要することとなった場合、この症状固定の意味やこれに関連する制度等について知っておくことがとても大事になります。
そこでこの記事では特に交通事故によって傷害を受けた場面を想定し、「症状固定とは何か」ということに言及していきます。
症状固定の意味
「症状固定」とは、それ以上医学的に認められた医療を施しても効果が見込めない状態を意味します。
つまり、ある怪我に対して治療を続けても改善がされなくなったときに「症状が固定した」と表現します。投薬やリハビリによって一時的な回復が生ずる場合であっても、その回復が一時的なものにとどまるのであればやはり症状固定として捉えます。
精神障害に関しても症状固定の概念は適用されます。
例えば、精神障害に対してはまず薬物療法や精神療法などが行われますが、ある程度症状が回復してくると、社会復帰を主目的としたリハビリテーション療法等が行われます。通常はこのリハビリテーション療法等を終了した時点を治癒の時期としますが、一定の症状を残したまま症状固定となり、後遺障害として取り扱われることもあります。
交通事故と労災における「症状固定」の関係
「症状固定」という概念は交通事故にのみ使われるものではありません。
労災保険上も同じ用語が用いられています。そして、単に言葉が同じなだけではなく、労災保険と自賠責保険(または任意保険)においてその概念にも差異はありません。
そのため、業務上交通事故に遭った場合でも労災保険と自賠責保険とで症状固定の時期が異なるという結果にはなりません。
労災保険から治療費等の給付を受けつつ自賠責保険においては症状固定の扱いを受けるということもできません。
症状固定の例
症状固定について、いくつか例を挙げます。
「切り傷もしくは割創の創面が癒合」または「骨折箇所が癒合」した場合であって、以降の療養継続に改善が期待できなくなったケース
(疼痛などの症状が残っていても、その症状が安定した状態に至れば症状固定となる)
機能回復療法として理学療法を行っており、治療施行時にはある程度運動障害が改善されるものの、数日で元の状態に戻ってしまうケース
外傷性頭蓋内出血により片麻痺が残っているが、症状は安定しており、以降の療養を継続しても改善が期待できないケース
頭部外傷の治癒後、外傷性てんかんが残っているが、以降の療養を継続してもてんかん発作が抑制できなくなったケース
腰部捻挫による腰痛症につき、療養を続けても改善が期待できなくなったケース
(疼痛などの慢性症状が続いていても、その症状が安定した状態に至れば症状固定となる)
このように、急性の症状を除き、残った症状が安定すれば基本的に症状固定と評価されます。疼痛など、痛みが残ってしまったときでも同様です。
症状の固定後はどうなるのか
症状が固定したと認められると、交通事故の加害者側に対して請求できる損害賠償の項目が変わってきます。
また、後遺症が残った状態であることから、各種支援制度が利用できることもあります。
後遺障害慰謝料や逸失利益が請求できるようになる
交通事故の被害に遭い損害が生じたのなら、物損に対する賠償金請求、治療費や入通院に対する慰謝料などが請求できます。
そしてそれ以上回復が見込めず、後遺症が残ってしまったのなら、後遺障害等級の認定を受けて「後遺障害慰謝料」および「逸失利益」も請求できるようになります。
後遺障害慰謝料は、症状が身体に残ったことに対する精神的肉体的苦痛を賠償してもらうために請求するものです。認定された等級に応じて金額が変わってきます。
逸失利益は、「後遺障害により失った労働能力」に対応する「本来得られるはずであった利益」を意味します。そのため請求額の計算にあたっては、後遺障害の等級に加え、事故直前の給与額や年齢などが加味されます。
アフターケア制度が利用できるようになる
「アフターケア制度」とは、怪我や病気等の再発、後遺障害に伴って生ずる別の病気の発症を防ぎ、円滑な社会生活を支援するための制度です。
そこで各人の症例に合わせて必要な措置、例えば診察・保健指導・検査などが月に一度ほどの頻度で実施されます。
同制度は以下20の傷病を対象としています。
せき髄損傷
頭頚部外傷症候群等(頭頭部外傷症候群、頚肩腕障害、腰痛)
尿路系障害
慢性肝炎
白内障等の眼疾患
振動障害
大腿骨頭部骨折及び股関節脱臼・脱白骨折
人工関節・人工骨頭置換
慢性化膿性骨髄炎
虚血性心疾患等
尿路系腫虜
脳の器質性障害
外傷による末梢神経損傷
熱傷
サリン中毒
精神障害
循環器障害
呼吸機能障害
消化器障害
炭鉱災害による一酸化炭素中毒
参照:厚生労働省 アフターケア制度(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/090325-1.pdf)
例えばせき髄損傷のケースであれば、保健のための処置として「褥瘡処置」「尿路処置」「薬剤の支給」などが受けられます。
褥瘡処置として自宅等で交換のために使う滅菌ガーゼや絆創膏の支給。尿路処置として自宅等で使うカテーテルや留置カテーテル、滅菌ガーゼの支給。そして薬剤の支給として抗菌薬・褥瘡処置用外用薬・尿路処置用外用薬・自律神経薬・鎮痛薬などが例示されています。
いつ症状固定となるのか
以上のように、症状固定と判断されることで後遺症を負った方の救済などが図られます。
そこで、具体的な請求額を左右することにもなる症状固定の時期についても重要になってきます。
このタイミングに関しては個別具体的な判断をしなければなりません。
症状別に一律に判断されるわけではない点注意が必要ですが、下表にその目安を示します。
症状 期間や特徴
むち打ち症 ・6ヶ月以上経過して固定するケースが多い
・客観的な証明は難しい
骨折 ・骨の癒合(骨折の修復)があったタイミングで固定となる
・6ヶ月かからないケースが多い
・骨折箇所の手術をし、癒合後プレート等の除去が必要な場合には固定するまでが長くなりやすい
・癒合後、関節可動域に障害が残るときはリハビリを要するためさらに期間は長くなりやすい
醜状障害 ・醜状障害とは身体に残ってしまった目立つ傷跡のこと
・傷が治ってから6ヶ月経過で固定になるケースが多い
・痕跡の改善のためレーザー治療等を行う場合は年単位で期間を要することも
高次脳機能障害 ・高次脳機能障害とは脳機能に障害が生じ様々な状態を引き起こすこと
・受傷から1年以上経過して固定となるケースが多い
症状固定に関する注意点
症状固定に関しては、「症状が固定したかどうかの判断」「相手方保険会社との交渉」「症状の固定時期」などに特に注意を払うことが大切です。
以下でそれぞれにつき説明していきます。
症状固定に関する判断
症状が固定と言えるには、「急性の症状が消退していること」、そして「慢性的な症状が残っていてもその症状が安定しており継続的な療養によっても医療効果が期待できないこと」が必要です。
この基準によらず判断をすべきではありません。
そしてこの基準につき厳格な判断をするには医学的知見が欠かせません。つまりは、自己申告で症状固定の判断ができるわけではなく、医師による判断を受けなければならないということです。
患者側の自覚症状の訴えのみをもって漠然と診療を続けることは認められません。
保険会社であってもその判断ができるわけではありません。
事故後、加害者が加入する任意保険会社から症状固定の認定につき催促を受けることもありますが、そもそも急いで判断ができるものでもありません。相手方としては、早期に症状固定を認めさせることで損害賠償額につき有利な状態にしたいと考えることからこのような対応を取ることがあるのです。
保険会社とのやり取り
前項の内容とも関連しますが、加害者側任意保険会社とのやり取りには十分注意しなければなりません。
症状固定の時期のみならず、治療費や慰謝料に関して直接交渉を持ちかけられることがありますが、その際慎重な判断をすることが大切です。
よく考えずに相手方の主張を受け入れ、返答してしまうことのないよう注意しましょう。
その結果、本来請求できたはずの賠償金も請求できなくなるおそれが出てきます。
特にサインを求められたとしても安易に署名または押印することなく、一度弁護士に内容をチェックしてもらうようにしましょう。この観点からも、当該事件の処理につき当初から弁護士に委任しておくことが推奨されます。間違ったアクションにより自身が不利な立場に立たされずに済むほか、示談交渉の段階から、裁判上で損害賠償額を争うのと同等の相場で決着を付けやすくなります。
症状固定の時期と治療費等の打ち切り
症状が固定し後遺障害等級の認定を受ければ、後遺障害慰謝料や逸失利益につき請求額が確定できるようになります。
ただし症状の固定はそれ以上の治療を施しても効果が望めないということを意味しますので、治療費の支払いが打ち切られることがあります。
逆に症状固定までの時期が長くなれば、その分治療費や入通院の日数も増えるため、傷害慰謝料も含め請求できる賠償金額が増すことになります。
また、休業損害の金額にも影響してきます。
症状が固定するまでの期間が長いほど休業損害の金額は大きくなりやすいです。ただし、症状固定後は逸失利益で考慮されるため、実際に受け取ることができる金額の差は細かく計算する必要があるでしょう。
なお、症状固定日は診断書に記載されると覆すのは簡単ではありませんが、裁判を経てその認定日を変える余地は残っています。
損害賠償請求や保険会社とのやり取りは弁護士に依頼するのがおすすめ
症状固定の判断は医師に頼らざるを得ませんが、その後の後遺障害等級の認定手続きや加害者側との交渉、損害賠償請求などでは弁護士によるサポートが有効です。
できるだけ希望通りの結果を実現するためには、事故後早い段階で弁護士への相談・依頼が大切です。問題を早期解決するためにも重要と言えます。