著者情報
弁護士 鈴木 晶
一般の方々に、わかりやすく法律の知識をお届けしております。
難しい法律用語を、法律を知らない人でも分かるような記事の作成を心がけています。
交通事故に関する様々な悩みを持つ方々のために、当ホームページは有益な情報を提供いたします。

交通事故に遭い、当初は物損事故として処理したものの、後から身体に痛みを感じたり、怪我に気付いたりするケースがあります。このようなときは「物損事故から人身事故への切り替え」をご検討ください。
物損事故のまま放置すると、十分な賠償が受けられなくなるなどいくつかの問題を生じます。
人身事故へと切り替えることでどうなるのか、そしてどうやって切り替えを行うのか、ここで解説しておりますのでぜひご一読ください。
物損事故から人身事故への切り替えは可能!

交通事故にもいろんなパターンがあります。ニュースで取りざたされるのは主に死傷者を出すような大きな事故ですが、大小さまざまな事故が毎日発生しています。
加害者の運転する車と接触したものの、「目立った外傷がない」「痛みがない」といった事例もあるでしょう。当初物損事故として処理をしてしまったものの、後になって痛みが出てきたり治療費が発生したりすることもありますのでご注意ください。大きな怪我を負っていなくても人身事故として通報すべきです。
ただ、いったん物損事故として扱われた交通事故でも後で人身事故に切り替えられるケースはあります。
そのため、もし「すでに物損事故として伝えてしまったけど、やっぱり人身事故として扱ってほしい」という場合は切り替えに向けての手続を始めると良いでしょう。
切り替えはできるだけ早めに
物損事故からの切り替えに決まった期限はありません。
「事故発生から10日以内に手続をした方がいい」といわれることも多いですが、あくまで目安であることにご留意ください。大事なのはとにかく早く対応することです。対応が遅れるほど事故状況の証明は難しくなってきますし、交通事故と怪我の因果関係を証明するのも難しくなってしまいます。
人身事故への切り替えの必要性

物損事故では、基本的に車両の修理費など物的損害に対する補償しか受けられません。しかし、人身事故であれば治療費、慰謝料、休業損害、通院交通費など、怪我に関するさまざまな補償を受けられるようになります。その他にも、以下に挙げる理由から、人身事故に切り替えた方が良いと説明できます。
加害者側に請求できる額が変わってくるため
交通事故によって怪我を負った場合、治療費や通院交通費に加え、精神的苦痛に対する慰謝料、休業損害、後遺障害が残った場合の後遺障害慰謝料など、さまざまな損害が発生します。
人身事故に切り替えることで、これらの損害に対する賠償請求が可能となり、十分な補償を受けられる可能性が高まります。物損事故のままだとこれらの請求が認められない可能性が高いのです。
特に慰謝料は精神的苦痛に対する補償であり、物損事故では基本的に認められません。請求ができるケースもありますが、次のようにごく限られたシチュエーションのみです。基本的には請求ができないものと考えておくべきでしょう。
物損事故で慰謝料の請求が認められる例
- 飼い犬が死亡した
- 墓石が破壊され、埋設されていた骨壺が露出する状態になった
- 自宅が破壊され、玄関にベニヤ板を付けた状態で過ごさないといけなくなった
物損事故だと自賠責保険が適用されないため
自賠責保険は、交通事故の被害者救済を目的とした強制保険であり、被害者の治療費や休業損害などを補償します。しかし、自賠責保険は人身事故に対してのみ適用され、物損事故では補償を受けることができません。
加害者に十分な経済力があれば自賠責保険が適用されなくても賠償金を支払ってもらえる可能性はありますが、加害者が“保険に未加入”かつ“支払い能力がない”といった場面だと、被害者自身で治療費などの負担をしないといけません。 一方、人身事故に切り替えることで自賠責保険の適用を受けられるようになり、被害者の経済的負担が軽減されます。
実況見分が行われない可能性があるため
交通事故が発生した場合、警察は実況見分※を行い、事故状況をまとめた実況見分調書を作成します。しかし、物損事故の場合、軽微な事故であれば実況見分が行われず、簡単な事故報告書のみの作成で終わることも多いです。
実況見分調書には、現場の状況や目撃者の証言などが詳細に記録されています。そこで過失割合の判定や損害賠償額の算定において重要な証拠として役に立ちます。しかしながら、物損事故のままで実況見分調書も作成されていないと、過失割合や損害賠償額について相手方と紛争が生じたとき不利な状況に陥るおそれがあります。
一方、人身事故に切り替えて警察が改めて実況見分を行い実況見分調書が作成されれば、その後紛争が起こったとしても有力証拠として実況見分調書を使うことができるのです。
※実況見分について
概要 | 「実況見分」とは、事故の現場に警察官と当事者が立ち会い、事故状況を確認する捜査のこと。同じ「捜査」でも、強制的に行われる現場検証とは異なる。 | |
実況見分調書への記載事項 | 「実況見分調書」とは実況見分の結果を記した書面のこと。事故現場見取図の作成のほか、以下のような項目が記載される。 ・日時や天候 ・見分場所や道路名 ・立会人の氏名 ・車両の状況 ・路面状況や道路条件、交通規制 など | |
実況見分調書が入手できる時期 | 捜査中 | 入手できない。 |
不起訴処分の後 | 検察庁で入手可能。 | |
公判中 | 検察庁または裁判所で入手可能。 | |
刑事処分の確定後 | 検察庁で入手可能。 | |
実況見分調書の取得手続 | 1:警察署で加害者の送致日や送致先の検察庁、送致番号を聞く。 | |
2:送致先検察庁にて送致日・送致番号を伝え、実況見分調書の閲覧・謄写の申込。 | ||
3:送致先検察庁にて実況見分調書の閲覧・謄写 |
加害者への責任追及の範囲が広がるため
通事故の加害者には刑事責任、民事責任、行政責任の3つの責任が生じます。
刑事責任とは罰金や懲役などの刑罰を受ける責任であり、民事責任とは被害者に対する損害賠償責任のことです。そして行政責任は免許の停止や取消など行政処分を受ける責任を指しています。
しかし物損事故の場合、民事責任の追及として行う損害賠償請求の額が小さくなるだけでなく、刑事責任や行政責任が問題とならないケースも多いのです。
物損事故だと「過失運転致死傷罪」や「危険運転致死傷罪」などの罪に該当せず、あるとしても意図的に交通事故を起こしたときの「器物損壊罪」や「運転過失建造物損壊罪」などの成立です。しかしこれらの罪が成立する場面は限られており、懲役刑や罰金刑を科してもらうことはあまり期待できません。
さらに、物損事故だと行政上の取り締まりとしての違反点数の加算もありません。
もし「加害者に反省して欲しい」という強い思いがあるのなら、やはり物損事故ではなく人身事故に切り替える必要があるでしょう。
特に切り替えをした方がいいケース

「改めて切り替えに向けた手続を進めるのも面倒だ」と思われることもあるかもしれません。ただ、次のようなケースでは特に人身事故への切り替えが強く推奨されます。
診察が必要な怪我をしているケース | 事故直後は軽傷に見えても、病院で検査を受けると通院が必要と診断されることがある。捻挫や打撲、切り傷、擦り傷などであっても、適切な治療を受けないことで傷跡や後遺症が残るおそれがあるため要注意。 |
症状の発現・悪化を感じているケース | 事故直後はアドレナリンが出ているため痛みを感じにくく、軽微な怪我と思い込んでしまうことがある。しかし、数日~数週間経って症状が悪化することも珍しくない。 「数日経って痛みが出始めた」「事故直後はごく軽い痛みであったが少しずつ強くなってきた」といったケースでは人身事故に切り替えて適切な治療と補償を受けることが重要。 |
妊婦や高齢者、持病のある方 | 妊婦や高齢者、持病のある方は、交通事故による身体への影響が大きくなる可能性がある。 たとえ軽微な事故であっても、念のため病院で検査を受け、医師の診断に基づいて人身事故への切り替えを検討することが大事。 |
飲酒運転や当て逃げ・ひき逃げなど行為が悪質なケース | 加害者がひき逃げや飲酒運転など悪質な違反を犯している場合、刑事罰が科される可能性がある。加害者へのペナルティを求める、実況見分調書の作成を求める、といったときにはしっかりと事情を警察に伝えて人身事故に切り替えることが大事。 |
人身事故への切り替えの手順

物損事故から人身事故に切り替えたいときは、次の手順に沿って処理を進めていきましょう。
- 病院で診断書を作成してもらう
- 弁護士に相談する
- 警察に人身事故への切り替えを求める
- 加害者側の保険会社に切り替えを伝える
病院で診断書を作成してもらう
人身事故への変更には、医師の診断書が不可欠です。まずは医療機関で受診し、医師に診断書を作成してもらいましょう。怪我の状況などが記されますが、交通事故において特に重視されるのは「怪我の原因が交通事故にあるのか」という点です。賠償金を請求するためにもできるだけ詳細な診断書を作成してもらい、些細な症状も必ず医師に伝えておきます。
弁護士に相談する
人身事故への変更手続きや、その後の保険会社との交渉は、専門的な知識が必要となる場合があります。特に、後遺症が残る可能性がある場合や、過失割合が争点となる場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
任意ですので弁護士がいなくても手続・交渉は可能です。しかし弁護士がついていれば、より有利に、より早く損害賠償請求の手続を進められるでしょう。逆に、法律の知識や判例への理解がないと、上手く交渉が進められず示談が不利な結果で終わってしまう可能性が高くなってしまいます。
警察に人身事故への切り替えを求める
医師の診断書が準備できたら、事故を管轄している警察署に診断書を提出し、人身事故への切り替えを申し出ます。
警察は診断書の内容を確認して人身事故として受理するかどうかを判断し、改めて実況見分を行い、事故状況を詳細に調査します。
ただ、実況見分を行うにしても事故発生から数週間も経過していると事故状況を正確に把握するのが難しくなってしまいます。そのためできるかぎり早めに警察へ申し出るようにしましょう。
加害者側の保険会社に切り替えを伝える
人身事故への切り替えができれば、加害者が加入している保険会社に連絡をします。保険会社に切り替えの事実が伝わっていないと物損事故としての賠償しか行われないため注意しましょう。
また、被害者自身も車を運転していたのなら、ご自身の加入している保険会社にも連絡をしてください。
その後は保険会社(任意保険未加入なら加害者本人)と示談交渉を進めていくことになりますが、賠償額などに納得してくれずなかなか折り合いがつかないときは訴訟の提起も検討します。訴訟対応には高度な知識やノウハウが求められますが、弁護士が代理人となれば心配も必要ありません。
横浜クレヨン法律事務所では年間150件以上の交通事故案件を取り扱い、年間相談件数は400件以上の実績があり、交通事故対応スペシャリストの弁護士が在籍しております。
- 初回相談・着手金:無料
- 弁護士費用特約未加入者:完全成果報酬
- 弁護士費用特約加入者:実質0円(保険からのお支払いのため)
- 事前予約で休日・時間外の無料相談OK:LINEから無料相談
簡単な相談からでも大丈夫ですので、ちょっとでもなにかしらの不安を抱えている方はぜひ一度ご相談くださいませ。