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弁護士 鈴木 晶

一般の方々に、わかりやすく法律の知識をお届けしております。
難しい法律用語を、法律を知らない人でも分かるような記事の作成を心がけています。
交通事故に関する様々な悩みを持つ方々のために、当ホームページは有益な情報を提供いたします。

交通事故の被害に遭った方は、事故により生じた損害を賠償してもらうよう、加害者に対して請求することができます。ただ、損害賠償請求の金額で揉めることが多いです。特に「過失割合」の認定が争点となることが多く、被害者としても過失割合の交渉で妥協を許してしまうと十分な賠償金を受けられなくなりますので注意が必要です。

当記事ではこの過失割合がどんな意味を持つのか、また、過失割合を考慮した損害賠償請求額の計算方法についても解説していきます。

この記事でわかること

  • 交通事故における過失割合とはなにかわかる
  • 過失割合はどうやって定まるのかわかる
  • 過失割合を考慮した損害賠償額の計算方法がわかる
  • 過失割合に納得できないときの対応がわかる

交通事故における過失割合とは

交通事故でよく問題となる「過失割合」とは、事故原因に関する、被害者と加害者の過失の程度を、割合で示したものです。

交通事故は、車を運転している人物など、誰かのミスが原因で発生することがほとんどです。このミスは法的には「過失」と呼ばれ、過失の大きさは損害賠償請求にも大きな影響を及ぼします。

加害者側の過失の割合が大きいほど被害者の請求できる金額は大きくなりますし、被害者側の過失も交通事故に絡んでいるのであればその分請求できる金額は小さくなってしまいます。

過失割合はどうやって定まるのか

過失割合は事故が起こった背景(加害者がどのような運転をしていたのか、被害者がどのような運転や歩行をしていたのか、周囲の交通状況、など)に基づいて定められます。しかし警察官などが判断するものではありません。そもそも損害賠償請求は民事上の問題であり、当事者間で請求額などを定めるのが原則だからです。

当事者間の交渉で決めるのが基本

交通事故の被害に遭った後、加害者側との交渉により、過失割合を決めていきます。

そのためにも、まずは「事故状況を把握」しないといけません。事故当時、信号の色はどうであったのか、一時停止の有無、その他道路の状況を整理しておく必要があります。これらを相手方に提示して交渉を進めないと、被害者側が提示する過失割合に根拠がなく、なかなか受け入れてはくれません。

事故当時の状況が整理できれば、基本となる過失割合を確認します。当事者間で過失割合を定めるといっても相場はあります。過去の裁判例などを参考にするのが通常であり、その相場に基づいておおよその過失割合を見出します。

その後、細かな事情も踏まえて修正を加えていきます。当該交通事故が起こった道路の幅、優先道路の有無、一方通行の道であったのかどうか、個別具体的な事情を反映させて過失割合を評価していきます。

以上の過程を経て算定された過失割合を相手方に提示します。その内容に納得が得られれば、過失割合を確定させられます。

交渉が成立しないときは裁判所を利用

当事者間での交渉で過失割合が定まらないときは、裁判所を利用することになります。

しかしいきなり訴訟を提起するわけではありません。まずは調停を検討することになるでしょう。ただし調停でも最終的には当事者双方の合意が求められますので、双方頑なに譲歩しなければ訴訟へと進みます。

※「弁護士会による交通事故処理委員会」「日弁連交通事故相談センター」「交通事故紛争処理センター」などが実施する紛争処理手続も利用可能。

訴えを提起する場合、まずは「訴状の作成」に取りかかります。
訴状を作成する際、「請求の原因」の記載に留意しましょう。交通事故の発生日時や場所、関係車両、態様を記載するとともに、責任原因も記載。人身事故の場合は傷害の内容や治療経過も記載します。どんな傷害を負ったのか、入通院先や通院実日数、後遺障害等級などの情報を整理した上で、治療関係費や休業損害、逸失利益、慰謝料などから算定される具体的な請求額も明記します。

続いて「証拠の準備」に取りかかります。
例えば次のような証拠を提出します。

  • 交通事故証明書
  • 現場見取図
  • 刑事事件記録
  • 陳述書
  • 医療記録
  • 自動車検査証
  • 事故現場の写真
  • 修理の見積書・請求書・領収書
  • 事故前後の映像を記録したドライブレコーダー
  • 事故前後の走行データを記録した装置

次に、類似する事故に関する過去の裁判例、提出した証拠などを参照して「裁判所が過失の有無およびその割合を認定」します。そして「損害賠償額を算定」。訴訟においてはこれらを確定させるのに当事者の同意は不要です。加害者、被害者のいずれかが納得できない場合でも、最終的には裁判所の判断で決まります。

加害者側との示談交渉においてもそうですが、訴訟にまで進むと特に弁護士による対応が欠かせません。プロが対応することで有利に進められる場面でも、交渉や訴訟に慣れていない一般の方が対応することで不利な結果に終わってしまう危険性があります。そのため交通事故に関しては弁護士に相談・依頼することが推奨されます。

過失割合を考慮した損害賠償額の計算方法

仮に加害者側に100%の過失割合がある場合は、損害賠償額の計算も比較的楽です。発生した損害額をそのまま請求することができるからです。

しかし、被害者側にも過失割合が認められる場合、その過失割合に応じた「過失相殺」が行われます。「過失相殺(かしつそうさい)」とは、交通事故を起こした双方の責任割合を考慮して、互いの損害額を相殺することを意味します。

実際、ほとんどの交通事故では過失相殺が行われています。なかなか一方に100%の過失割合が認められるケースはないからです。

例えばXとYによる交通事故を考えてみましょう。両者ともに車を運転しており、主にXの過失が原因で交通事故が発生。「X:Y=8:2」が認められました。Xに生じた損害は100万円で、Yに生じた損害は500万円とします。

このとき過失割合を考慮しなければ、XはYに対して100万円を請求し、YはXに対して500万円を請求することになります。

ここに過失割合の概念を導入すると、Xにとって、損害額100万円の8割にあたる80万円は自分のミスで生じたものであり、Yに請求できるのは20万円です。
Yからすると、損害額500万円の2割にあたる100万円が自分のミスで生じたものとなり、Xに請求できるのは400万円です。

結果、全体としてはYがXから「400万円-20万円=380万円」を受け取ることで問題は解決に至ります。

自分の過失割合に応じて金額を差し引くことを過失相殺と呼び、Xにとっては80万円の過失相殺、Yにとっては100万円の過失相殺が行われたことになります。

過失割合別の計算例を紹介

過失割合の例をいくつか挙げて、それぞれ計算例を紹介していきます。

なお、あくまで相場に基づく簡素な例であり、現実にはより詳細の状況を考慮し、細かい計算を要することは留意しないといけません。

3割の過失がある場合(7:3の過失割合)

交通事故の被害に遭った方に3割の過失が認められるシチュエーションとしては、「広い道路を車で走っていたところ、信号のない交差点で、狭い道路から直進してきた車と衝突した」などが考えられます。

7:3の過失割合が認められる状況で、被害者側の被害金額1,000万円、加害者側にも100万円の損害が生じたとしましょう。

被害に遭った方としては1,000万円を請求したいところですが、過失相殺により「1,000万円×30%」の300万円は差し引かれてしまいます。300万円分は自らのミスにより発生したと考えます。加害者側は、「100万円×70%」の70万円が過失相殺により差し引かれます。主に自分のミスにより起こった損害ですので、大幅に相殺されています。

結果、被害者の方は700万円を請求すると同時に、加害者側から30万円の請求を受けることになります。互いに支払い合っても良いのですが、余計な手間がかかりますので、被害者が加害者に対して670万円を請求することで処理するケースもあります。

2割の過失がある場合(8:2の過失割合)

続いて、被害者に2割の過失割合がある場合を想定します。

被害に遭ったのが歩行者である場合を考えてみましょう。横断歩道のない場所を歩いているときに車と接触した場合、車を運転していた方に8割の過失割合が認められやすく、その一方で横断歩道のない場所を横断していた歩行者にも2割ほどは過失が認められやすいです。

また、車で優先道路を走っていたところ、非優先道路を直進してきた車と衝突することもあります。信号がない場合は、優先道路を走っていたとしても2割ほどの過失割合が認められやすいです。
もちろん、「いずれかが明らかに先に交差点へ侵入していた」「いずれかが速度違反をしていた」という場合にはその分が過失割合にも影響しますが、ここでは考慮しないものとします。

8:2の過失割合において、前項同様、被害者1,000万円・加害者100万円の損害が生じたとしましょう。

過失相殺により被害者は「1,000万円-200万円=800万円」、加害者は「100万円-80万円=20万円」が請求できる金額です。結果的に、被害者は加害者から780万円を受け取る形で終結します。

1割の過失がある場合(9:1の過失割合)

9:1の過失割合とは、実質、ほぼすべての過失が加害者側にあった場合です。10:0で評価されるシチュエーションはかなり限定的であるため、9:1はほとんど被害者側に非がない状況であると考えられます。

例えば優先道路を直進していたところ、非優先道路から右折で侵入してきた車と衝突した場合、9:1が認められやすいです。また、歩道と車道の区別のない道路上を歩いていて車と接触した場合も9:1となりやすいです。もちろん道路幅や歩行者の歩いていた場所なども考慮して修正されることはあります。

9:1の過失割合で被害者1,000万円、加害者100万円の損害が生じたとします。
被害者は「1,000万円-100万円=900万円」、加害者は「100万円-90万円=10万円」が請求できる金額です。結果的に、被害者は加害者から890万円を受け取る形で終結します。

過失割合に納得できないときの対応

事故後、相手方が加入する任意保険会社から示談交渉を受け、過失割合に関する提示を受けることもあるでしょう。その内容に納得できないときは、仮にもサインをしてしまうなど、受け入れてしまうことのないようにしないといけません。

示談が成立していない段階なら、交渉を通して異なる過失割合に変更することは可能です。目撃者の証言や現場状況を記録した写真、ドライブレコーダーに残された映像などを示すことでご自身に有利な過失割合へと修正できる可能性があります。

証拠の集め方、有効な示談交渉の方法、調停や訴訟の進め方など、不安になることも出てくるかもしれませんが、弁護士に相談すれば安心して取り組むことができます。難しいことは弁護士に任せることができ、相手方から提示された過失割合が適切なものかどうかの判断もできます。プロのサポートを受けて、納得のいく損害賠償請求を行いましょう。