交通事故の中でも「人身事故」に遭ったら、加害者や加害者の保険会社へ慰謝料を請求できます。
ただし慰謝料にはいくつかの「種類」がある上「計算基準」も複数あって、具体的にいくら請求できるか算定するのは簡単ではありません。

今回は交通事故で慰謝料を請求できるケース、慰謝料の種類や計算方法、金額の相場やできるだけ高額な慰謝料を受け取る方法を横浜の弁護士が解説します。
事故でむちうちや骨折などのケガをした方はぜひ、参考にしてみてください。

目次

1章 交通事故で慰謝料が発生するケース

交通事故に遭ってもすべてのケースで慰謝料請求できるわけではありません。
慰謝料が発生するのは基本的に「人身事故」に限られます。
慰謝料とは、相手の不法行為によって被害者が受けた精神的苦痛に対する賠償金です。
車が損傷しただけで済んだ物損事故では、被害者が慰謝料を要するほどの精神的苦痛を受けないと考えられています。

一方、人身事故で入通院をすれば、基本的にどのようなケガであっても慰謝料を請求できます。たとえばむちうちや骨折、軽い打撲や裂傷、捻挫、脳障害どの傷害を負ったら症状の内容や程度、入通院期間や後遺障害の内容や程度により算定された慰謝料が払われます。
ただし慰謝料を請求するには入通院をしなければなりません。「軽傷だから病院へ行くほどではない」といって通院しなければ慰謝料は請求できないので、注意しましょう。

2章 交通事故の慰謝料の種類

交通事故の慰謝料には以下の3種類があります。

入通院慰謝料(傷害慰謝料)

入通院慰謝料とは、事故で被害者がケガをしたために受けた精神的苦痛への慰謝料です。
交通事故で受傷すると、被害者は痛みや恐怖を感じて大きな精神的苦痛を受けるでしょう。そこで慰謝料が発生します。
入通院慰謝料は入通院した期間に応じて計算され、治療期間や日数が多いと金額が上がります。「傷害慰謝料」ともよばれます。

なお弁護士基準の場合、通院期間よりも入院期間の方が慰謝料額は上がります。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、事故の被害者に後遺症が残って「後遺障害等級認定」を受けられたときに請求できる慰謝料です。
後遺障害等級認定とは、自賠責が後遺症を正式に「後遺障害」として認定し、内容や程度に応じて14段階の等級をつけて分類する制度です。
自賠責で後遺障害等級認定を受けられたら、認定された等級に応じて後遺障害慰謝料が払われます。
後遺障害慰謝料を請求できるのは、治療しても完治せず後遺症が残り、後遺障害認定を受けられた場合に限られます。
事故後に後遺障害認定を受けると、入通院慰謝料にプラスして後遺障害慰謝料を請求できるので、全体的な慰謝料額が大きく増額されます。

死亡慰謝料

死亡慰謝料は、事故で被害者が死亡してしまった場合に遺族が加害者へ請求できる慰謝料です。
不幸にも被害者が死亡してしまったら、被害者本人は多大な精神的苦痛を受けて死亡の瞬間に慰謝料が発生し、遺族へ相続されると考えられています。
また遺族自身も被害者を失うことで精神的苦痛を受けるので、遺族固有の慰謝料も請求可能です。

3章 交通事故の慰謝料、3つの計算基準

交通事故の慰謝料には3種類の計算基準があります。
どの基準を適用するかで同じ事案でも慰謝料の金額が変わるため、それぞれの計算方法を理解しておきましょう。

自賠責基準

自賠責基準は、自賠責保険が保険金を計算する際に適用する基準です。
国土交通省が一律の基準を定めているので、どこの自賠責保険会社でも同じ数字になります。
金額的には3種類の計算基準の中でもっとも低水準です。

任意保険基準

任意保険基準は、任意保険会社が適用する基準です。
各保険会社がそれぞれ定めているので、保険会社によって数字はまちまちですが、一定の相場はあります。
任意保険基準で慰謝料を計算すると、自賠責基準より多少高い程度となる例が多く、次に紹介する弁護士基準よりは大幅に低額となるケースが大多数です。

弁護士基準(裁判基準)

弁護士基準は弁護士や裁判所が採用する法的な基準です。
弁護士が保険会社と示談交渉をする際や裁判所が損害賠償金を算定する場合に適用され「裁判基準」とも呼ばれます。

弁護士や裁判所以外に交通事故紛争処理センターなどのADRでも弁護士基準に近い計算方法を用いるケースが多数となっています。
弁護士基準や裁判基準は3つの基準のうちもっとも高額なので、この基準をもちいて計算すると慰謝料額が大幅にアップする可能性があります。
交通事故の被害者が適正かつ高額な慰謝料を受け取るには、弁護士基準を当てはめる必要があるといえるでしょう。

4章 交通事故による後遺障害の慰謝料を計算基準によって比較

交通事故の被害者が「後遺障害等級認定」されると、加害者へ後遺障害慰謝料を請求できます。
後遺障害慰謝料の金額を自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準で比較するとどの程度の差が発生するのか、みてみましょう。

【後遺障害慰謝料の比較表】

上記は弁護士基準と自賠責基準の比較表です。任意保険基準については各任意保険会社によって異なり社外秘となっているケースも多いので、一律には表示できません。

ただし一般的な相場として、任意保険基準は自賠責基準に多少色を付けた程度の数字となります。たとえばむちうちで14級となった場合、自賠責基準では32万円ですが任意保険基準では40万円程度となるケースが多いでしょう。弁護士基準の110万円には遠く及びません。

弁護士基準は他の基準の2~3倍

後遺障害慰謝料を弁護士基準で計算すると、自賠責基準や任意保険基準と比べて2~3倍程度にアップするケースが多数です。

たとえばむちうちで14級に認定された場合、自賠責基準や任意保険基準では30~40万円程度にしかなりませんが、弁護士基準なら約110万円も請求できます。
12級になった場合、自賠責基準や任意保険基準では100万円程度ですが、弁護士基準なら290万円程度払ってもらえます。

交通事故で後遺障害が残ったとき、適正な慰謝料額の支払いを受けるには弁護士基準で計算することが重要といえるでしょう。

5章 通院のみの慰謝料の計算方法、相場

交通事故後、通院のみを行って特に後遺症が残らなくても「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」を請求できます。
以下では通院しかしなかった場合の慰謝料の計算方法、相場をみてみましょう。

入通院慰謝料の計算方法

入通院慰謝料については、各計算基準によって計算方法が大きく異なります。

自賠責基準

自賠責基準の場合、入通院慰謝料は「1日あたり4,300円」として、治療日数をかけ算して求めます。ただし実際に通院した日数が少なければ「実通院日数×2」に4,300円を掛け算します。
つまり自賠責基準による入通院慰謝料は、以下のいずれか少ない方の金額となります。

  • 4,300円×治療期間に対応する日数
  • 4,300円×実通院日数×2

入院日数と通院日数に差はありません。

計算例

ケース1
被害者が事故後、3か月(90日)通院治療を受けたケース(実通院日数60日)
4300円×90日=387000円

ケース2
被害者が事故後、3か月(90日)通院治療を受けたケース(実通院日数40日)
この場合、実通院日数が少ないので実通院日数×2である80日を基準にします。
よって入通院慰謝料額は以下の通りとなります。
4,300円×80日=344,000円

弁護士基準

弁護士基準の場合、計算式ではなく入通院期間に対応する表によって相場の金額を算定します。
また「軽傷の場合(自覚症状しかないむちうちの場合を含む)」と「通常程度のケガの場合」で慰謝料額が変わり、軽傷の場合、通常程度のケガの場合と比べて慰謝料額が3分の2程度に減額されます。

軽傷の場合の慰謝料の相場

たとえば通院3か月の場合、入通院慰謝料額は53万円程度となります。

通常程度のケガの場合の慰謝料の相場

たとえば通院3か月の場合、入通院慰謝料額は73万円程度となります。

通院日数が少ない場合

弁護士基準でも、実通院日数が少ないと慰謝料を減額される可能性があります。

まず軽傷の場合、通院期間が長くなってきて実通院日数が減ってくると、「実通院日数×3」を通院期間としてカウントされるケースが多々あります。

通常程度のケガの場合でも、通院期間が長くなり通院頻度が減ってくると「実通院日数×3.5」を通院期間として計算される可能性があります。

通院のみでも「入院あり」と判断されるケース

弁護士基準では「通院のみ」の場合、入院した場合よりも慰謝料額が低くなります。
ただしギプスをつけた状態で自宅療養をすると、その期間が入院日数としてカウントされる可能性があります。

たとえば「入院30日、通院期間60日、ギプスをつけて自宅療養した期間が15日」の場合、「入院日数45日、通院期間60日」として入通院慰謝料を計算できます。
すると原則的な計算方法よりも入通院慰謝料額がアップします。

対象となるギプスの種類

自宅療養していても入院日数としてカウントしてもらえるギプスは限定されています。以下のようなものが対象です。

長管骨や脊柱の骨折・変形等のために必要となったギプス
長管骨…上腕骨・撓骨・尺骨・大腿骨・脛骨・腓骨

長管骨に接続する三大関節部分の骨折や変形等によって必要となったギプス
三大関節部分…肩甲骨・鎖骨・手根骨・腸骨・恥骨・坐骨・膝蓋骨・距骨・踵骨・足根骨

体幹ギプス
体感ギプス…胴体部分につけるギプス。ギプスシーネ・ギプスシャーレ・副子(シャーネ)が対象となり、ポリネックや頚部コルセット・鎖骨骨折固定帯などは対象になりません。

なおギプスを付けた状態で通院すると「通院日数」として数えます。入院扱いとなるのは、あくまで「自宅療養」していた場合に限られます。

自賠責の7日加算とは

自賠責基準では、実際に通院していなくても「7日」を通院日数として加算してもらえる可能性があります。
これを自賠責の7日加算といいます。

7日加算が適用されると、自賠責基準における入通院慰謝料の日数が増えるので慰謝料が増額されます。適用されるのは、以下のケースです。

交通事故から8日経過してから治療を開始した場合

交通事故後、すぐに通院を開始せずに8日後以降に通院を開始した場合、治療開始の7日前を起算日として入通院慰謝料を計算します。つまり入通院慰謝料のカウント日数が7日増えます。

治療最終日から8日経過してから「治癒」と判定された場合

治療最終日にすぐ治癒せず、その後8日経過してから「治癒」と判断されると、治療最終日の7日後を最終日として入通院慰謝料を計算します。やはり入通院慰謝料のカウント日数が7日増えます。

診断書に「治癒見込」「継続」「転医」「中止」と記載された場合

自賠責所定の診断書に「治癒見込」「継続」「転医」「中止」と記載されると、通院期間に7日が加算されます。

  • 治癒見込…治癒したわけではないが、今後自然に治癒が見込まれる場合
  • 継続…今後も継続的に治療が必要な場合(精神疾患やてんかんなどの場合に診断書へ記載されるケースがあります)
  • 転医…病院や医師を変更する場合
  • 中止…治癒していないが治療を中止する場合

任意保険基準の場合

任意保険基準は公表されていないケースも多く、各任意保険会社によって異なるので一律の計算式や相場を表示できません。

ただし一般的には、自賠責基準と同程度か多少高額になる程度が相場です。
また通院期間よりも入院期間の方が、慰謝料額は上がるのが一般的です。
弁護士基準と比べると低額になるケースがほとんどなので、被害者としては弁護士基準を適用して計算した方が有利になります。

十分な入通院慰謝料を払ってもらう方法

交通事故でケガをして十分な入通院慰謝料の支払いを受けるには、以下のような工夫をしてみてください。

完治、症状固定まで通院する

1つ目に完治または症状固定するまで通院を継続することが極めて重要です。
完治とは、症状が完全に治って元通りの状態の戻ることをいいます。
症状固定とは、これ以上治療を続けても症状が改善しなくなった状態です。

入通院慰謝料は、完治または症状固定と判断されるまでの期間で計算されるので、完治や症状固定前に治療を打ち切ると、その分慰謝料額が減額されてしまいます。完治、症状固定は医師が判断する事項なので、医師と相談しながら通院をいつまで続けるか決めましょう。
保険会社が治療費を打ち切ったとしても、完治や症状固定していないなら治療をやめるべきではありません。

一定以上の頻度で通院する

次に通院頻度を一定以上に保つことが重要です。
自賠責では通院期間の半分以下の日数しか通院しなければ、入通院慰謝料額を減額されてしまいます。
弁護士基準でも、治療日数が長くなって通院頻度が落ちると慰謝料額を減額される可能性があります。
十分な慰謝料を払ってもらうには、1週間に2~3回程度は通院するのがよいでしょう(こちら、リハビリを前提とした場合です。リハビリが必要か否かは、医師の指示に従って下さい)。

実質的な治療を受ける

通院時に実質的な治療を受けることも重要です。たとえば薬だけ処方してもらう、湿布だけをもらうなどの形式的な対応では、「もう通院の必要はないのではないか」と思われて慰謝料額を減額される可能性があります。

6章 死亡慰謝料の計算方法と事例

交通事故で被害者が死亡した場合の死亡慰謝料の計算方法をご紹介します。

自賠責基準の場合

自賠責基準では、死亡慰謝料は「本人の慰謝料」と「遺族の慰謝料」に分けて計算します。
本人の慰謝料額は、一律で400万円です。
遺族の慰謝料は遺族の人数や被扶養者の有無、人数によって異なります。

計算の具体例

一家の大黒柱となっている会社員が死亡して、遺族として妻と1人の子どもがいる場合
この場合、本人の慰謝料は400万円、遺族の慰謝料が850万円となるので、遺族は合計で1,250万円の慰謝料を請求できます。

弁護士基準の場合

弁護士基準の場合には、被害者の立場によって変わる相場の金額があります。

  • 被害者が一家の大黒柱…2,800万円程度
  • 被害者が配偶者や母親…2,500万円程度
  • それ以外の場合…2,000~2,500万円程度

上記の金額には、基本的に遺族の慰謝料も含まれます。
たとえば一家の大黒柱となっている被害者が死亡した場合、遺族はまとめて2,800万円程度の慰謝料を請求できます。
独身の方や子ども、高齢者などが死亡した場合には2,000~2,500万円程度の幅の中で、事情に応じて算定されます。

任意保険基準の場合

死亡慰謝料についても任意保険基準は任意保険会社によって異なるので、一律ではありません。金額的には自賠責基準と弁護士基準の間くらいになるケースが多数です。
任意保険基準を弁護士基準と比べると1,000万円程度低くなる事例も多いので、遺族の立場としては弁護士基準を適用して慰謝料を計算することが重要となるでしょう。

7章 交通事故による慰謝料の事例

人身事故に遭うと、実際にどの程度の慰謝料を請求できるものなのか、具体例でみてみましょう。

ケース1 通院6か月のケース

自覚症状のないむちうちや軽傷で通院6か月となった場合、慰謝料額は89万円程度です。
MRIなどで異常を把握できる他覚症状のある場合や骨折などの通常程度のケガで通院6か月となった場合、慰謝料額は116万円程度となります(いずれも弁護士基準にて計算)。

ケース2 入院1か月、通院6か月、後遺障害9級となったケース

骨折などで入院1か月、その後通院6か月して症状固定し、後遺障害等級認定の結果9級が認定されたとしましょう。
この場合、入通院慰謝料は149万円程度です。
後遺障害慰謝料は9級なので690万円程度となります。
慰謝料額は合計で839万円となります(すべて弁護士基準にて計算)。

ケース3 入院2か月、通院10か月、後遺障害7級となったケース

骨折や脳障害などで入院2か月、通院10か月して症状固定し、後遺障害7級が認定されたとしましょう。
この場合、入通院慰謝料は203万円程度となります。
後遺障害慰謝料は7級なので、1,000万円程度です。
慰謝料額は合計すると、1,203万円程度となります(すべて弁護士基準で計算)。

一家の大黒柱が事故で入院1か月の後、死亡したケース

一家の大黒柱の男性で交通事故に遭い重症となり、病院へ運び込まれて1か月入院し、その後死亡したとしましょう。
このように死亡事故のケースであっても、入通院期間があれば入通院慰謝料が発生します。
この方の場合、1か月入院したので入通院慰謝料は28万円です。
死亡慰謝料は2,800万円程度なので、合計すると慰謝料額は2,828万円程度となります。

なお上記の計算すべて弁護士基準で計算した数字です。自賠責基準や任意保険基準を適用すると、大幅に金額が下がるのでご注意ください。

8章 交通事故で被害にあった主婦が請求できる慰謝料

主婦が交通事故に遭った場合、どのくらいの慰謝料を払ってもらえるのかみていきましょう。

主婦が怪我で通院した場合の慰謝料はいくら?

主婦であっても慰謝料の計算方法は基本的に他の職業や年齢の方と同じです。
慰謝料とは「事故に遭ったことによる精神的苦痛への賠償金」であり、事故によって精神的苦痛を受けるのは、どんな仕事の方でも年齢の方でも同じだからです。
性別による違いもありません。

主婦がけがで通院したら、5章でご紹介した一般的な基準によって入通院慰謝料が支払われます。
以下で入通院慰謝料の金額の一例をみてみましょう。

自覚症状しかないむちうちで通院3か月

患者が「痛い、しびれる」といった症状を訴えるだけでMRIなどの画像で異常が見られない程度のむちうちの場合、主婦の入通院慰謝料は53万円程度となります。

通常程度のけがで通院3か月

レントゲンやMRIなどで異常がみられるむちうちやその他の通常程度のけがで通院3か月の場合、入通院慰謝料は73万円程度です。

自覚症状しかないむちうちで通院6か月

自覚症状しかないむちうちで6か月通院すると、慰謝料の相場は89万円程度となります。

骨折で通院1か月、通院3か月

主婦が骨折して通院1か月、通院3か月となった場合、入通院慰謝料の相場は115万円が目安となります。

主婦だからといって慰謝料を減らされることはありません。示談交渉の際には相場を知って適正な金額の慰謝料を請求しましょう。

家事が出来なかったことへの賠償金はもらえる?

主婦が交通事故に遭うと、入通院治療や自宅療養が必要となって家事ができなくなってしまうケースもあるでしょう。
その場合の補償は行われるのでしょうか?

休業損害を請求できる

主婦が家事をできなかったことに対する補償は請求できますが、慰謝料ではありません。
「休業損害」となります。
主婦が家事をしても給料などのお金を得られるわけではありませんが、家事労働には経済的な価値があると考えられます。交通事故に遭って家事ができなくなると、その分の損害が発生し、休業損害を請求できるのです。

休業損害の計算方法

休業損害を計算する際の計算式をみてみましょう。

  • 休業損害額=1日あたりの基礎収入×休業日数

ただ主婦の場合、実際にはたらいているわけではないので休業損害を計算するときの「基礎収入」をいくらとすべきかが問題となります。

このように実際に収入を得ていない人の休業損害は「賃金センサス」という統計資料の平均賃金を用いるケースが多数です。
主婦の場合、「全年齢の女性の平均賃金」を用いて休業損害を計算します。そうなると、だいたい1日1万円程度となります。

兼業主婦の休業損害

外でパートや会社員などをしている兼業主婦の場合、実際に収入も得ているので1日あたりの基礎収入をいくらとすべきかが問題となります。
法律実務において兼業主婦の場合には、以下のいずれか高い方の金額を基礎収入とします。

  • 全年齢の女性の平均賃金
  • 実際に得ている収入の額

実際に得ている収入額がおよそ1日1万円を上回っていたらそちらを基準にしますし、低ければ全年齢の女性の平均賃金が用いられます。
実収入と賃金センサスの「合算」はできないので注意しましょう。

男性の主夫の場合

男性の主夫が交通事故に遭った場合にも休業損害は請求できます。ただ男性の平均賃金は女性より高く、男性の平均賃金をあてはめると女性の主婦とくらべて不公平となってしまいます。
そこで男性の場合も女性と同様に「全年齢の女性の平均賃金」を使って1日あたりの基礎収入額を計算するので間違えないように注意しましょう。

交通事故の後遺症で家事に支障が出た時の賠償金はもらえる?

後遺障害認定を受ける

主婦が交通事故によって後遺症が残り、家事に支障が出たらその分の補償は受けられるのでしょうか?

「後遺障害等級認定」を受ければ、後遺症に対する補償も受けられます。
後遺障害等級認定とは、交通事故の後遺症を正式に「後遺障害」として認定し、14段階のランクをつける制度です。
1級がもっとも重い後遺障害で、14級がもっとも軽いものとなっています。
後遺障害等級認定を受けられると、「後遺障害慰謝料」と「後遺障害逸失利益」を払ってもらえます。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったことによって被害者が受ける精神的苦痛に対する賠償金です。
主婦だからといって増やされたり減らされたりすることはありません。4章で紹介したとおりの金額が相場です。
妊娠中の方が交通事故に遭って流産した場合などには慰謝料額が相場より増額されます。

たとえば主婦がむちうちで後遺障害14級に認定されたら110万円程度の後遺障害慰謝料を請求できて、12級が認定されると290万円程度の後遺傷害慰謝料を請求できます。

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益は、後遺障害が残ったことによって得られなくなった将来の収入への補償です。
交通事故で後遺障害が残ると、体が不自由になるのでそれまでと同様には家事や仕事ができなくなるでしょう。一生に得られる収入が減ってしまうと考えられるので、逸失利益として支払いを受けられるのです。
逸失利益の計算式は以下のとおりです。

  • 後遺障害逸失利益=事故前の年収×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

主婦や主夫の場合、実際に事故前に収入を得ていたわけではありません。そこで休業損害と同様に「全年齢の女性の平均賃金」を用いて計算します。
労働能力喪失率とは、後遺障害によって失われた労働能力の程度です。後遺障害の等級が上がって症状が重くなるほど労働能力喪失率は高くなります。
就労可能年齢の上限は基本的に67歳として計算します。

主婦が交通事故に遭った場合でも、認定等級が高ければ5,000万円以上の高額な逸失利益を請求できるケースも少なくありません。
交通事故で後遺症が残ったら、後遺障害等級認定の手続きを進めて、適正な損害額を計算して支払ってもらいましょう。

慰謝料が振り込まれるまでの日数の目安は?

交通事故後、慰謝料が実際に支払われるまでどの程度の日数がかかるのでしょうか?
以下で3段階に分けておおむねの日数の考え方をご紹介します。

事故後、示談を開始するまでの日数

交通事故に遭ってもすぐに示談交渉を開始できるわけではありません。
まずは完治または症状固定まで治療を続ける必要があります。
治療期間が長くなると、慰謝料を受け取れる時期が先になってしまうでしょう。
一方、治療期間が短い場合、早期に示談交渉を開始できて慰謝料を受け取れる時期も早まります。

示談交渉にかかる日数

示談交渉にも時間がかかります。すんなり合意できれば1か月で済むケースもありますが、もめると1年近くかかる可能性もあります。訴訟になればもっと長い時間がかかるでしょう。示談交渉にかかる日数もケースバイケースです。

示談成立後振込までの日数

示談が成立すると、保険会社は比較的速やかに保険金を支払ってくれます。
示談書を返送したら2週間程度で振り込みが行われるケースが多いでしょう。

以上のように、主婦が交通事故に遭ったときに実際に慰謝料を受け取れるまでの目安の日数は、以下の合計日数となります。

  • 「慰謝料が支払われるまでの日数=事故から示談交渉を開始するまでの日数+示談や訴訟などにかかる日数+示談後実際に振込が行われるまでの日数」

9章 交通事故による慰謝料の計算は自分でできる

交通事故に遭うと、まずは自分で慰謝料を計算しようと考える方が多いでしょう。
とはいえ慰謝料の計算方法は複雑です。
そもそも3種類もの慰謝料があり、それぞれについて3種類の計算基準があります。
また上記で紹介した弁護士基準の慰謝料は「相場」であり、個別具体的な事案によっては金額が変わるケースも少なくありません。
たとえば後遺障害1級の後遺障害慰謝料相場は2,800万円ですが、状況によっては3,000万円程度に増額される可能性もあります。

適正な慰謝料の金額を、法的知識のない被害者が1人で計算するのは困難でしょう。

任意保険からの提示額は適正でないケースが多い

自分で慰謝料を計算するのが難しいからといって、任意保険会社の担当者の提示する金額を盲信するのは危険です。任意保険会社は適正な金額を計算してくれるわけではありません。社内の独自基準である任意保険基準を適用しています。

任意保険基準は弁護士基準より大幅に低いケースが多いので、担当者から提示される額も適正額とは程遠くなっている可能性があります。
そのまま受け入れると、本来法的に請求できるはずの金額からは大幅に低くされて被害者が正当な補償を受けられなくなってしまうでしょう。

適正な慰謝料額を計算して正当な金額を受け取るには、弁護士に慰謝料の計算方法を相談すべきです。弁護士であれば弁護士基準を適用できますし、これまでの裁判例なども参考に個別事情も評価して適正と考えられる慰謝料額をご提示できます。

「どのくらいの慰謝料を請求できるのだろうか?」と迷われたら、一度お気軽に弁護士までご相談ください。
横浜クレヨン法律事務所でも、交通事故案件の解決実績が高いので、これまで取り扱った例なども参考に慰謝料額をお伝えさせていただけます。

10章 休業損害や逸失利益について

交通事故の被害者が請求できるのは、慰謝料だけではありません。
以下のような損害についても賠償請求できます。

治療費

病院でかかった医療費や薬代です。付添看護費用や交通費も請求できます。

休業損害

入通院のために仕事を休んだら、休業損害も請求できます。親族が仕事を休んで付き添うと、付添看護費用ではなく親族に休業損害が払われるケースもあります。

介護費用

被害者の体が不自由となって介護が必要な場合、介護費用も請求できます。
高次脳機能障害や脊髄損傷、遷延性意識障害などで生涯に渡る介護が必要な場合には、一生分の高額な介護費用も払ってもらえます。

器具や装具の費用

後遺障害が残り、さまざまな器具や装具が必要となればそういった費用も請求できます。
たとえばコンタクトレンズや杖、義手や義足などの費用です。

車や家の改装費用

被害者に後遺障害が残ると、車を障害者用に改造したり家をバリアフリーに回収したりしなければならないケースがあります。
そういった場合には、必要な範囲で車や家の改装費用も請求できます。

逸失利益

逸失利益とは、被害者に後遺障害が残ったり死亡したりしたときに請求できる「将来の減収に対する補償金」です。
後遺障害が残ると被害者は一切働けなくなるので、減収が発生します。そこでその減収分を逸失利益として請求できます。
被害者が死亡すると当然一切働けません。そこで死亡後に得られるはずだった収入を逸失利益として請求できます。
逸失利益は慰謝料以上に高額になるケースも多いので、後遺障害が残った場合や死亡事故などの重大事案では非常に重要な損害項目となります。

葬儀費用

被害者が死亡した場合には、葬儀費用も請求できます。

物損

車や自転車が壊れたり衣類、スマホなどの所持品が破損したりすると、物損についても相手に請求できます。

交通事故に遭ったら上記のような損害をすべて合算して相手へ請求する必要があります。
お1人では適正な算定が難しいでしょうから、弁護士へご相談ください。

11章 なるべく多くの慰謝料を受け取る方法

交通事故被害者ができるだけ多くの慰謝料を受け取るには、以下のような工夫をしてみてください。

弁護士基準を適用する

慰謝料額をアップさせるため、まずは弁護士基準(裁判基準)で慰謝料を計算することが必須です。
任意保険基準で計算されると、入通院慰謝料も後遺障害慰謝料も死亡慰謝料もすべてが法的な基準より減額されてしまいます。

ただし被害者ご本人が保険会社へ対し「弁護士基準を適用してください」と言っても、通常は聞き入れてもらえません。保険会社からは「うちの基準ではこちらの金額(任意保険基準の金額)となります」「これ以上を望むなら裁判するか弁護士に依頼してください」と言われてしまうでしょう。
弁護士基準を適用するには、以下の方法をとる必要があります。

弁護士に示談交渉を依頼する

弁護士に示談交渉を依頼すると、弁護士基準で慰謝料やその他の賠償金を計算して相手に支払いを求めます。保険会社側も弁護士がついていれば弁護士基準を認めるのが一般的です。
保険会社から賠償金の提示を受けたとき、弁護士に示談交渉を依頼すると慰謝料額が数倍にアップする事例も珍しくありません。
特に後遺障害が残ったり死亡したりした重大事案では任意保険基準と弁護士基準の差額が大きくなるので、必ず弁護士へ依頼しましょう。

訴訟を起こす

訴訟を起こせば裁判所は弁護士基準(裁判基準)で慰謝料やその他の賠償金を計算します。
弁護士に依頼した場合だけではなく、ご本人が訴訟を起こした場合であっても弁護士基準が適用されます。
ただし訴訟で主張を認めてもらうには、法律や裁判手続きに関する専門知識が必要です。
一般の方が1人で訴訟を起こすとかえって不利になってしまいやすいでしょう。
訴訟をする場合でも、必ず弁護士に依頼するようおすすめします。

ADRを利用する

3つ目は、交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターなどのADRを利用する方法です。
ADRで審査を利用すると、弁護士基準に近い方法で賠償金を計算してもらえるケースが多数です(ただし必ずしも弁護士基準がそのまま適用されるとは限りません)。

後遺障害等級認定を受ける

慰謝料を高額にするための2つ目のポイントは、後遺障害等級認定です。
高い等級の後遺障害認定を受けられたら高額な後遺障害慰謝料が払われるので一気に賠償金が増額されます。
ただ被害者が1人で効果的に後遺障害等級認定の手続きを行うのは簡単ではありません。
非該当になったり思ったより等級が低くなったりしてしまうケースも多々あります。
可能な限り高い等級の後遺障害認定を受けるには、弁護士によるサポートが必要です。

過失割合を低くする

最後に「過失割合」を低くすることが重要です。
過失割合が高くなると割合的に慰謝料が減額され、受け取れる金額が減ってしまいます。
保険会社が提示する過失割合は必ずしも適正とはいえません。
受諾してしまう前に弁護士へ相談して、適正な割合になっているか確認しましょう。
誤りがあるなら保険会社へ訂正を求めるべきです。

まとめ

横浜クレヨン法律事務所では、交通事故被害者の救済に熱心に取り組んでいます。慰謝料の計算方法を知りたい方、妥当な金額の慰謝料を知りたい方、保険会社から提示された慰謝料額が妥当かわからない方、示談交渉を任せて高額な慰謝料を受け取りたい方はお気軽にご相談ください。