追い越し際に交通事故が発生したら、追い越し車と追い越される車の過失割合はそれぞれどのくらいになるのでしょうか?
現場が追い越し禁止場所なのか、右左折する車が道路交通のルールを守っていたかなどの諸事情により、過失割合は変わってきます。
今回は「交差点において右左折車と後ろから走行してきた直進車が追い越し際に接触した交通事故」の過失割合を解説します。
追い越し禁止場所において、直進車が道路中央を越えて追い越そうとした場合
基本の過失割合
追い越し直進車:追い越される右左折車=90%:10%
(道路交通法30条3号)によると、交差点の手前30メートルの地点から交差点までの間では基本的に追い越しが禁止されます。それにもかかわらず、中央線をはみ出して追い越そうとした直進車には、高い過失が認められます。
一方で、進路変更によって後続車の速度や進行方法に急な変更を強いる危険がある場合、前方車両は進路変更してはなりません(道路交通法26条の2第2項)。それにもかかわらず進路変更した前方車両にも一定の過失が認められるでしょう。
そこでこのケースの基本の過失割合は後方の直進車の過失割合が90%となり、前方の右折車の過失割合が10%となります。
基本の過失割合は以下のような事情によって修正されます。
- 直進車の著しい速度違反
直進車が時速20キロメートルを超過するような著しい速度違反をしていれば10%程度、過失割合が加算されます。
- 直進車の著しい過失
直進車に著しく不適切なハンドル・ブレーキ操作、スマホをみながらの運転、著しい前方不注視などの「著しい過失」があれば、5%過失割合が加算されます。
- 直進車の重過失
直進車に居眠り運転、無免許運転、酒酔い運転などの重過失があれば10%程度、過失割合が足されます。
- 右折車があらかじめ道路中央に寄らず右折
右折車は、あらかじめ道路中央に寄って中心に近い場所を右折しなければなりません(道路交通法34条2項)。それにもかかわらず道路中央に寄らないで右折すると高い危険を発生させてしまいます。そこで右折車に過失割合が10~20%加算されます。
- 右折車の著しい過失
右折車に著しい過失があれば右折車に10%、過失割合が加算されます。
- 右折車の重過失
右折車に重過失があれば右折車に20%、過失割合が足されます。
【言葉の意味】
著しい過失
著しい速度違反、著しい前方不注視、酒気帯び運転、著しく不適切なハンドル・ブレーキ操作など、「通常想定されている以上に高い過失」を意味します。
重過失
酒酔い運転、無免許運転、居眠り運転など、「故意とも同視できるような危険で重大な過失」をいいます。
著しい過失や重過失については次項以降でも登場するので、押さえておきましょう。
追い越しが禁止されていない場所で、直進車が道路中央を越えて追い越そうとした場合
基本の過失割合
追い越し直進車:追い越される右折車=50%:50%
道路交通法によると、基本的に交差点の直近における追い越しは禁止されますが、優先道路については例外とされています。優先道路であれば、交差点内であっても追い越しをしてもかまいません(道路交通法30条3号)。
ただ道路中央を越えて無理に前方車両を追い越そうとした点においては、追い越し車両にも過失があるといえます。一方で追い越し車に進路を譲らなかった右折車にも一定の過失が認められるので、こういった状況の交通事故ではそれぞれの過失割合が50%ずつとされるのが基本です。
- 直進車の著しい速度違反
直進車がおおむね時速20キロメートルを超える速度違反をしていれば、直進車に10%程度の過失割合が加算されます。
- 直進車の著しい過失…直進車に10%加算
- 直進車の重過失…直進車に20%加算
- 右折車が合図をしなかった…右折車に10%加算
- 右折車の著しい過失…右折車に10%加算
- 右折車の重過失…右折車に20%加算
右折車があらかじめ道路中央に寄らずに右折しようとした場合
基本の過失割合
右折車:直進車=80%:20%
交差点で右折する場合、右折車はあらかじめできる限り道路中央に寄り、交差点の中心直近の内側を徐行して右折しなければなりません(道路交通法34条2項)。
それにもかかわらず右折車があらかじめ道路中央に寄らなかった場合、右折車には高い過失が認められます。
一方で、前方に充分な注意を払わなかった直進車にも一定の過失割合が認められるので、基本の過失割合としては右折車の過失割合が80%、直進車の過失割合が20%となります(※直進車が、右折車の後方から追い越しをかけていた場合は別の基準となります。2023/11/09 更新)。
- 直進車が時速15キロメートル以上の速度違反…直進車に10%加算
- 直進車が時速30キロメートル以上の速度違反…直進車に20%加算
- 直進車の著しい前方不注視、著しい過失…直進車に10%加算
- 直進車の重過失…直進車に20%加算
- 右折車が徐行しなかった…右折車に10%加算
- 右折車の合図が遅れた…右折車に5%加算
- 右折車が合図をしなかった…右折車に15%加算
- 右折車が直進車の直近で右折した…右折車に10%加算
- 右折車の著しい過失…右折車に10%加算
- 右折車の重過失…右折車に20%加算
左折車があらかじめ道路左端に寄らずに左折しようとした場合
基本の過失割合
左折車:追い越し直進車=80%:20%
交差点で左折する際、左折車はあらかじめできる限り道路の左端により、かつ左側に沿って徐行しなければなりません(道路交通法34条1項)。それにもかかわらず道路左側に寄らず突然左折すると、後方から来た直進車には予想がつかないので高い危険を発生させてしまうでしょう。左折車に高い過失が認められます。
一方で前方に充分注意を払っていなかった直進車にも多少の過失が認められるので、左折車の過失割合が80%、直進車の過失割合が20%となります。
- 直進車が時速15キロメートル以上の速度違反…直進車に10%加算
- 直進車が時速30キロメートル以上の速度違反…直進車に20%加算
- 直進車の著しい前方不注視、著しい過失…直進車に10%加算
- 直進車の重過失…直進車に20%加算
- 左折車が徐行しなかった…左折車に10%加算
- 左折車の合図が遅れた…左折車に5%加算
- 左折車が合図をしなかった…左折車に15%加算
- 左折車が直進車の直近で右折した…左折車に10%加算
- 左折車の著しい過失…左折車に10%加算
- 左折車の重過失…左折車に20%加算
右折車があらかじめ道路中央に寄れない状況
基本の過失割合
右折車:追い越し直進車=60%:40%
交差点で右折する場合、右折車は可能な限り、あらかじめ道路の中央によって中心に近い場所を徐行して右折しなければなりません(道路交通法34条2項)。
しかし右折して進入する先の交差道路が狭い場合や進入先の道路が鋭角になっている場合など、あらかじめ道路中央に寄るのが難しいケースも考えられます。そういった場合、右折車があらかじめ道路中央に寄っていなかったとしても高い過失は認められません。
ただし右折する以上は後方の安全確認を充分に行うべきです。後方車両が直進してきているのに気づかず無理に右折した点で、右折車には一定の過失割合が認められるでしょう。
一方で前方を充分に注視していなかった直進車にも過失が認められるので、基本の過失割合としては右折車の過失割合が60%、後方の直進車の過失割合が40%となります。
- 直進車が時速15キロメートル以上の速度違反…直進車に10%加算
- 直進車が時速30キロメートル以上の速度違反…直進車に20%加算
- 直進車が著しい前方不注視または著しい過失…直進車に10%加算
- 直進車に重過失…直進車に20%加算
- 右折車が徐行しなかった…右折車に10%加算
- 右折車の合図が遅れた…右折車に10%加算
- 右折車が合図を出さなかった…右折車に20%加算
- 右折車が直進車の直近で右折した…右折車に20%加算
- 右折車の著しい過失…右折車に10%加算
- 右折車の重過失…右折車に20%加算
左折車があらかじめ道路左端に寄れない状況
基本の過失割合
左折車:追い越し直進車=60%:40%
交差点で左折するとき、左折車は可能な限り、あらかじめ道路の左端に寄って徐行しながら左側に沿って左折しなければなりません(道路交通法34条1項)。ただ、道路状況によってはあらかじめ左に寄るのが難しいケースも考えられます。たとえば図のように進行方向の道路が鋭角になっていて細い場合などです。道路交通法34条1項は努力義務なので、どうしても左側に寄るのが難しい場合には、左折車が無理に左側に寄っていなくても高い過失は認められません。
とはいえ後方の安全に十分注意を払わなかった点で、左折車には一定の過失があるといえるでしょう。
一方で、前方車両の動きに気づかなかった後方の直進車にも、過失があります。そこで基本の過失割合としては、左折車の過失割合が60%、後方の直進車の過失割合が40%となります。
- 直進車が時速15キロメートル以上の速度違反…直進車に10%加算
- 直進車が時速30キロメートル以上の速度違反…直進車に20%加算
- 直進車が著しい前方不注視または著しい過失…直進車に10%加算
- 直進車に重過失…直進車に20%加算
- 左折車が徐行しなかった…左折車に10%加算
- 左折車の合図が遅れた…左折車に10%加算
- 左折車が合図を出さなかった…左折車に20%加算
- 左折車が直進車の直近で右折した…左折車に20%加算
- 左折車の著しい過失…左折車に10%加算
- 左折車の重過失…左折車に20%加算
過失割合に納得できない場合、弁護士にご相談を
交通事故では、「自分の過失割合をどの程度にされるのか」が非常に重要です。被害者側の過失割合を高くされると、「過失相殺」によって相手に請求できる賠償金を減額されてしまうためです。
示談交渉の際、保険会社が提示する過失割合は必ずしも適正とは限りません。弁護士が示談交渉を行って修正要素を正しく適用すると、被害者側の過失割合が大きく下がるケースも多々あります。すると示談金が大幅にアップするので、被害者の方は大きなメリットを得られるでしょう。
事故の相手の主張内容に納得できないなら、無理に妥協する必要はありません。適正な過失割合をあてはめて充分な賠償金を獲得するため、まずは一度弁護士までご相談ください。