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弁護士 鈴木 晶
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運転しているとよく見かける「止まれ」と書かれた一時停止の道路標識や路面標示。
「実際、一時停止って何秒止まれば良いの?」
「罰金(反則金)はいくら?点数は何点だったっけ?」
「一時停止する場所って・・・標識が有る所だけ?」
「保険会社との示談で、一時停止したかどうかで争いになってる…」
そんな疑問を持っているのではないでしょうか。
ドライバーなら自然に停止して左右確認してから通行しているはずですが、慣れにより一時停止や安全確認を怠ったり、走り慣れない道路で停止位置が分からなくなってしまうこともあるかもしれません。
しかし一時停止無視はれっきとした交通違反であり、重大な交通事故につながる可能性もあります。そこで今回は、一時停止の正しい知識や違反したときの罰則などを解説します。
最高速度違反に次いで違反数が多い「一時停止違反」
一時停止の道路標識や路面標示は、事故が発生しやすい信号機のない交差点や見通しの悪い路地や合流に設置されています。運転していると見逃してしまうこともありますが、一時不停止は大きな事故につながる可能性があります。
上のグラフは、警察白書の「交通違反取締り(告知・送致)件数(令和2年)」を元にしたもので、一時停止違反の取締件数は1,604,972件と最も多いことがわります。
さらに警察庁交通局が発表している「令和2年中の交通事故の発生状況」の「法令違反別の状況 原付以上運転者(第1当事者)の法令違反別交通事故件数の推移」の統計データによれば、令和元年に一時不停止が原因で起きた事故は14,925件にのぼります。ちなみに令和2年は12,387件です。
この数値は、信号無視(令和元年11,652件/令和2年10,165件)や通行区分(令和元年2,748件/令和2年2,211件)、最高速度(令和元年357件/令和2年371件)など、ほかの交通違反と比べても非常に多くなっています。このように一時不停止は、重大事故につながる可能性が高く、摘発件数も多くなっています。
一時停止の正しいルールとは?
通常は、信号のない交差点や路地の手前など、事故が発生しやすいところが一時停止指定場所になっています。そこで、一時停止の正しいルールについて解説していきます。
一時停止の定義
一時停止は、道路交通法(以下「道交法」という。)で以下のように定められています。
「車両等」とは、自動車・原動機付自転車・軽車両・トロリーバスを指し、「交通整理の行われていない交差点」は、3灯式の信号が設置されていない交差点と、警察官が手信号などで交通整理を行っていない交差点を意味します。
信号機が設置されていても点滅信号と、交差する片側の道路だけ信号機がある道路は、交通整理が行われていない道路となります。
ここでポイントになるのは、交通整理が行われていない道路では、道路標識等により一時停止すべきことが指定されているときは一時停止しなければいけないということです。
また、停止線がある場合はその直前、停止線がない場合は交差点の直前で一時停止することが義務付けられています。
一時停止の法的意義
「一時停止」には一時停止規制の車両が、一時停止をし、左右を見て交差道路を進行する相手方車両の接近を認めたが、その速度と距離の判断を誤って、低速度で交差点に進入し、減速しなかった相手方車両と衝突したという事故態様を想定しており、一時停止規制側の車両が一旦停止位置において停止したとしても、直ちに適用されるわけではないとされています(別冊 判例タイムズ参照)。
これを「一時停止後進入」といい単に一旦停止をしただけでは足りないことに注意が必要です。
一時停止後の安全確認義務
道路交通法43条の趣旨は、道路標識等によって指定した場所において車両等を一時停止させ、かつ、交差道路の車両等の進行妨害を禁止し、安全を確かめたうえで交差点に入らせることを目的としています。
また、踏切通過の場合と同様、一時停止規制車両は、「一時停止」と「安全確認」の両義務を負うとされています。
路面にペイントされている「止まれ」は規制効力がない?
「止まれ」の路面標示のみの場合は、厳密にいえば法律上の一時停止の規制効力がありません。路面のペイントは、法律で定められた路面標示に該当しないので、一時停止の義務がないということです。
したがって、道路標識がなく、路面標示のみで一時停止が指示されている場合は、停止しなくても道交法上の違反対象にはなりません。
ただし、「止まれ」の路面ペイントは、左右の見通しが悪い場所に多く、危険なことに変わりはないです。法律上の一時停止義務はありませんが、安全運転のために一時停止するようにしましょう。
一時停止の停止位置と停止時間
一時停止と聞くと、漠然と「少し止まって安全確認をする」というイメージがありますが、具体的にどこで、どれくらい停止すればよいのか説明するのは難しいものです。一時停止の位置と停止時間について解説します。
一時停止する位置
一時停止の位置は、「道路標識等による停止線がある場合はその直前、道路標識等による停止線が設けられていない場合にあっては、交差点の直前」になります。
停止線を超えてしまったり、タイヤで踏んでしまったりした場合は、一時停止と認められません。また、ゆっくり進み、完全に停止していない場合も一時停止にならないので注意してください。
一時停止の目的は止まることではなく、あくまで安全を確保することです。正確に止まってから安全確認をしっかり行いましょう。
停止すべき時間
道路交通法において、一時停止の停止時間については厳密な規定はありません。
しかし安全確認のために一時停止するので1秒未満では短すぎます。完全に停止して、左右と前方の安全確認をしてから発進するには、数秒間は必要です。
運転教習所では3秒間は停止するよう指導されるのが一般的です。
一時停止義務違反の反則金と点数
一時停止義務違反には、これまで説明してきた「指定場所一時不停止等違反」と、踏切直前での一時停止を怠った場合の「踏切不停止等違反」の2種類があります。
違反点数は、どちらも「2点」となりますが、反則金の金額が異なります。反則金の支払いは、コンビニエンスストア等では対応していません。銀行や郵便局などの金融機関で、指定された期日までに収めましょう。
歩行者や自転車の一時停止について
まず自転車は、道交法で「軽車両」に該当するので、一時停止の義務が発生します。
ただし、自動車と異なり、交通反則通告制度が適用されません。一時停止違反には「3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金」が課せられます。
自転車も一時停止せずに交差点に侵入すれば危険ですし、一時不停止で事故を起こせば自転車でも責任が問われます。
一方で歩行者は、車両に含まれないので一時停止義務がありません。しかし、急に道路を横断したり、左右の確認をせずに横断歩道を渡ったりすれば危険です。自分の身を守るため、しっかりと安全確認してから横断等をしましょう。
一時停止の過失割合について
ここでは、交通事故の示談金の交渉や、裁判において争われる「過失割合」において、「一時停止」が認定されるかどうかの基準について説明します。
一時停止がされたかどうかは、①一時停止規制がある道路において ②一時停止をしたかどうか で判断されます。
②一時停止をしたかどうか についての判断ですが、加害者と被害者で一時停止の有無に争いがなかったり、ドライブレコーダーや目撃者の証言といった客観的な証拠がある場合は、その通りに認定されることがほとんどです。
では、一時停止をしたか否かが争いになっている場合はどのように判断されるのでしょうか?
一時停止をしたか否かについては、争いになった場合には、一時停止の規制を受ける側が、自分で、「一時停止をした」ということを主張立証する必要があると考えられています(このことを「立証責任」といいます。)
では、どのようなことをすれば、争いになっている場合に、「一時停止をした」ということを立証できるのでしょうか。
これは、個別の事案によって異なりますが、具体的な衝突の状況や、停止状況によって判断されることが多いでしょう。
例えば、衝突された側の車の損傷が大きなものである場合、一時停止していたらスピードも落ちているので、そこまでの損傷は生じないということが経験則になりますので、一時停止は認定されないでしょう。他方、極めて軽微な衝突痕であれば、一時停止が認定される可能性もあります。
事故の態様から何も一時停止をしたということがわからなければ、一時停止したかしていないかは不明なので、していないという判断がされてしまうことも十分にありえます。
また、一時停止をした、といえるためには「一時停止したあとに安全確認をした」ということが必要になってきます。この、「安全確認をした」という事実はかなり立証が難しい事実となります。しかし、「3~4秒停止をしていればその時間に安全確認もしただろう」という経験則もありますので、結果的に3~4秒停止していれば安全確認も認定され、結果的に一時停止後の進入ということになるケースもあります。「何秒停止していたら一時停止になるのか」という議論で言われることが多い「3秒ルール」というのは、こういった経験則からきているものと考えられます。
【事例別】一時停止無視による交通事故の過失割合
一時停止を無視して交通事故が発生した場合、基本的に被害者と加害者(違反車)は20対80の過失割合になります。
また、信号機のない交差点では被害者と加害者の位置関係が重要となり、お互いを見たとき、過失割合が高くなるのは左側に位置する車両です。
ただし、道幅(幅員)や車両の進行方向、速度などの修正要素を考慮するため、被害者であっても過失割合が加算される可能性があるので注意してください。
次に過失割合の加算・減産が考慮されるケースを解説しますが、まず基本的な考え方を押さえておきましょう。
信号機なしの交差点で事故があったケース
東から西へ直進する車両Aと、北から南へ直進する車両Bが衝突した場合、左側車両となるAの過失割合が高くなりますが、減速の有無も考慮されます。
- AとBの速度がほぼ同じ:60対40
- Aは減速なし、Bは減速:40対60
- Aは減速、Bは減速なし:80対20
信号がない交差点での衝突事故は上記を過失割合の基本としますが、事故の発生状況等により、判例の過失度に以下の加算・減算を反映させます。
Aが左側車両だったときの加算・減算要素
- 見通しのよい交差点:Aは−10%
- Aが大型車:Aは+5%
- Bが大型車:Aは-5%
- Aに著しい過失あり:Aは+10%
- Bに著しい過失あり:Aは−10%
- Aに重過失あり:Aは+20%
- Bに重過失あり:Aは−20%
- 夜間の事故:Aは−5%
著しい過失と重大な過失の違い
交通事故が発生した場合、著しい過失と重大な過失(重過失)が過失割合に大きく影響しますが、具体的には以下のような違いになっています。
著しい過失
- 酒気帯び運転
- わき見(前方不注意)運転
- ハンドルやブレーキの著しい誤操作
- 15km/h以上30km/h未満の速度超過 など
重大な過失
- 無免許運転
- 居眠り運転
- 酒酔い運転
- 時速30キロ以上の速度超過
- 嫌がらせ運転(あおり運転)など
著しい過失や重過失があったときは、被害者・加害者を問わず、過失割合に5~25%の加算があるので注意が必要です。
一時停止無視のケース
一時停止を無視したことで事故が発生した場合、当然ながら加害者(違反車)の過失割合は高くなりますが、被害者にも何らかの過失があるケースがほとんどです。
優先道路を走行していた車が被害者となった場合、加害者との過失割合は10対90ですが、被害者にわき見運転などの過失があれば、20対80になる可能性もあります。
一時停止などの規制がある場合、規制を受けない側にも十分な注意義務が発生するので注意しておきましょう。
一時停止した後に発生したケース
優先道路を走行していたAと、一時停止が必要な道路を走行していたBが事故を起こした場合、交差点に信号がなければ減速の有無が過失割合に影響します。
- Bが一時停止後に侵入:40対60
- AとBの速度がほぼ同じ:20対80
- Aは減速なし、Bは減速:30対70
- Aは減速、Bは減速なし:10対90
上記を基本として、さらに車両の大きさや先入の状況が考慮されます。
- Bの先入が明確なとき:A・Bどちらも修正なし
- Aが大型車:Aは+5%
- Bが大型車:Aは-5%
- Aに著しい過失あり:Aは+10%
- Bに著しい過失あり:Aは-10%
- Aに重過失あり:Aは+20%
- Bに重過失あり:Aは-20%
優先道路側で一時停止したケース
優先道路を走行中の車両Aが交差点で一時停止したものの、一般道から進入した車両Bと衝突した場合、基本的な過失割合は10対90ですが、以下の要素も考慮します。
- Bの先入が明確なとき:Aは+10%
- Aが大型車:A・Bどちらも修正なし
- Bが大型車:Aは-5%
- Aに著しい過失あり:Aは+15%
- Bに著しい過失あり:Aは-10%
- Aに重過失あり:Aは+25%
- Bに重過失あり:Aは-20%
優先道路を走行している場合、徐行の規制がない交差点でも十分な注意を払う必要があるため、被害者側の車両Aにも一定の過失が認められることになります。
一時停止後の侵入時に発生したケース
車両Aが一時停止した後で交差点に進入し、その後車両Bと衝突(追突など)した場合、A・Bの基本的な過失割合は40対60になります。
さらに加減要素を考慮するため、Bのわき見運転であればBに+10%、Aに重過失(無免許運転など)があればAに+20%の修正を行います。
交差点内で信号待ちしていた車両へ側面衝突したケース
車両Aが交差点内で信号待ちしていたところ、交差する道路から直進してきた車両Bに側面衝突された場合、A・Bの過失割合は0対10になります。
ただし、信号が切り替わるタイミングも考慮するため、被害者となるAの過失割合が加算されるケースもあります。
- 明確なBの進入だがAにも過失あり:Aは+10%
- Aに著しい過失あり:Aは+10%
- Bに著しい過失あり:Aは-5%
- Aに重過失あり:Aは+20%
- Bに重過失あり:Aは-10%
著しい過失には酒気帯び運転や脇見運転、ブレーキやハンドルの著しい操作ミス、15km/h以上30km/h未満の速度オーバーなどがあり、5~10%の加算要素となります。
一時停止の規制がない交差点でのケース
交差する道路が同じ幅員であり、一時停止の規制やセンターラインがなく、信号機もない交差点の場合、左側車両Aと右側車両Bは以下の過失割合になります。
- AとBの速度がほぼ同じ:40対60
優先の区別がない道路では、左側車両というだけで過失が決定されるわけではなく、さらに以下の加減要素も考慮して過失割合を決定します。
Aが左側車両だったときの加算・減算要素
- 見通しのよい交差点:Aは−10%
- Aが大型車:Aは+5%
- Bが大型車:Aは-5%
- Aに著しい過失あり:Aは+10%
- Bに著しい過失あり:Aは−10%
- Aに重過失あり:Aは+20%
- Bに重過失あり:Aは−20%
- 夜間の事故:Aは−5%
一時停止無視により発生した人身事故
一時停止を無視した場合、バイクや自転車、歩行者と衝突する可能性もあります。
状況によっては刑事罰の対象となりますが、運転免許証の違反点数にも大きく影響します。
- 全治15日未満➡加害者の過失4点、被害者の過失3点
- 全治15日以上30日未満➡加害者の過失6点、被害者の過失4点
- 全治30日以上3ヶ月未満➡加害者の過失9点、被害者の過失6点
- 全治3ヶ月➡加害者の過失13点、被害者の過失13点
- 建造物破損➡加害者の過失3点、被害者の過失2点
- 後遺症あり➡加害者の過失13点、被害者の過失9点
- 死亡事故➡加害者の過失20点、被害者の過失13点
なお、人身事故に至らなくても、一時停止を無視した交通事故では2点の減点となります。
交通事故の過失割合は保険会社が決定する
交通事故の過失割合は双方(加害者と被害者)の保険会社が交渉する、または自分で直接相手方の保険会社と交渉して決定するケースがあります。
ただし、保険会社は自社の顧客(相手方)を優先するため、自分で直接交渉するときは、相手の言葉をすべて鵜呑みにしないように注意しておかなければなりません。
過失割合が9対1から8対2に変わるだけでも、賠償金や慰謝料に大きく影響するため、基本的な過失割合や、加算・減算要素は理解しておく必要があります。
不利な過失割合になると十分な賠償金を受け取れないことや、高額な慰謝料を支払う可能性もあるでしょう。
交渉に自信のない方は早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
まとめ
ドライバーにとって一時停止のルールを守ることは義務です。一時停止の指定場所は、必ず危険が潜んでいるので、止まって安全確認しましょう。
単に一時停止しただけでは、一時停止したことになりません。そのため、交通事故被害者の方は、加害者が一時停止をしていると保険会社にいわれても、ドライブレコーダーや、事故の状態を良く確認した上で、示談をするようにしましょう。