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弁護士 鈴木 晶
一般の方々に、わかりやすく法律の知識をお届けしております。
難しい法律用語を、法律を知らない人でも分かるような記事の作成を心がけています。
交通事故に関する様々な悩みを持つ方々のために、当ホームページは有益な情報を提供いたします。
交通事故の被害に遭われた方は、加害者側に慰謝料などの損害賠償を求めることができます。弁護士に依頼するなどしてじっくり示談交渉を進めていけば、納得のいく慰謝料が得られるかもしれません。
しかし交渉を行っている間も治療費などの費用は発生し続けます。手元の現金が不足していると、生活もままならなくなります。
この問題を解決するには、“示談よりも前の慰謝料の受け取り”を実現する必要があります。この方法について、この記事で解説していきます。
一般的な慰謝料の支払い時期
交通事故の被害に遭っても、すぐに慰謝料やその他賠償金が支払われるわけではありません。
加害者側との示談交渉を行い、その示談成立から2週間ほど経ってようやく手元にお金がやってきます。
それまでの基本的な流れとしては次の通りです。
- 交通事故の発生
- 事故直後の警察への届出などの対応
- 医師の診断を受ける
- 治療を続ける
- 加害者の加入する任意保険会社あるいは加害者本人と示談交渉
示談交渉は、すんなり当事者のいずれかが他方の意見を受け入れればすぐに終わります。
しかし事実関係を争うケースでは対立が長期化する傾向にありますし、示談金のみを争うケースでも、数ヶ月程かかることは珍しくありません。
弁護士を介さず被害者の方本人が交渉をするとなればさらに長い期間がかかってしまうでしょう。
慰謝料の支払いが遅くなるケース
慰謝料の支払いが遅くなるケースとして「後遺症が残るとき」が挙げられます。
交通事故により後遺症が残る場合、治療を継続して“症状固定”と呼ばれる状態にまで至る必要があります。そしてその後遺症により労働能力が喪失したことを、所定の手続を経て「後遺障害」として認定を受けることが必要です。
症状固定に至るまでの期間も、怪我の症状に応じて数ヶ月間以上を要しますし、そこから後遺障害等級認定の申請を行い、結果を受けるまでにも1,2ヶ月がかかります。単に提出書類を受理するだけでなく、申請後は後遺障害に関する調査も行うことになるからです。
「訴訟を提起するとき」にも慰謝料の支払いは遅くなってしまいます。
示談を成立させられない場合、最終的には裁判所に解決を求めることになります。訴訟を提起した場合、当事者の合意がなくても結論を出すことができますが、慎重な審理が行われ、解決までの期間が1年以上になることも多いです。
慰謝料は示談前に受け取ることも可能
上記の通り、示談交渉や訴訟での審理を待っていると、慰謝料の支払いを受けられる時期が相当に遅くなってしまいます。事故発生から半年以上、1年以上になることも覚悟しないといけません。
しかし示談前に一切の金銭が受け取れないわけでもありません。
まず、加害者本人との交渉を通して前払いを受け入れてくれれば全体の賠償額が定まる前に、金銭を受け取ることも可能です。
ただ、こうした事例は稀だと思われます。そこで以下では自賠責保険や任意保険を利用した、示談前の賠償金請求について説明します。
示談前の慰謝料請求①:自賠責保険
自賠責保険は、交通事故の被害者救済を目的に、最低限の補償を行うための保険です。強制保険であり、自動車を運転する人には自賠責保険への加入が法令で義務付けられています。
自賠責保険の加入者は加害者ですが、「被害者請求」と呼ばれる、被害者自身が直接請求をする方法もあります。これは示談前でも行うことができ、請求内容が認められれば30日ほどで支払いを受けることが可能です。
しかし被害者請求をするまでにはさまざまな書類を準備しなければならず、請求をするまでにも期間を要します。
そこでより早く賠償金を受け取りたい場合は、次項以下で説明する「仮渡金」の請求を検討しましょう。
仮渡金について
「仮渡金」は、事故直後の治療費負担などに困る被害者のために、賠償額が確定する前に渡すことのできる金銭のことです。
治療費など実際の負担額は人それぞれ異なりますが、仮渡金制度では、傷害の程度に応じて一定額が支給されるものと定められています。
仮渡金で受け取れる金額
仮渡金の請求をして受け取ることができる金額は、決まっています。
被害者が亡くなっているときは290万円、その他傷害の程度に対応して「5万円」「20万円」「40万円」に区分されています。
傷害の程度と仮渡金の額の対応表を下に示します。
仮渡金の請求手続
仮渡金の請求を認めてもらうには、前提として、条件である「事故の加害者から示談金を受け取っていない」ことを満たしていないといけません。
その上で、被害者自身が保険会社に対して請求を行わないといけません。
請求時には、次の書類を準備しておきましょう。
- 仮渡金支払請求書
必要事項を記入して作成する - 交通事故証明書
人身事故の場合に必要。自動車安全運転センターで発行してもらう - 事故発生状況報告書
- 医師の診断書または死体検案書(死亡診断書)
治療を施した医師または病院から受け取る - 印鑑証明書
仮渡金の受取人が請求者本人であることを証明するための書類。住民登録をしている市区町村で受け取れる。未成年者が被害者で、親が請求をするときは、未成年者の住民票または戸籍抄本も必要 - 委任状と委任者の印鑑証明書
弁護士などに委任をしているときは、その委任をした事実を証する委任状と、委任者の身分確認に印鑑証明書を用意してもらう - 戸籍謄本
死亡事故の場合に必要
仮渡金の請求後、約1週間で支払いを受けられます。ただし、仮渡金は1度しか請求できませんし、あくまで先に賠償額の一部を受け取れるに過ぎません。その後の賠償金については、仮渡金の額を控除した額が支払われます。
示談前の慰謝料請求②:任意保険
加害者が任意保険に加入している場合、その保険会社との交渉を通して「一括対応」や「内払い」をしてもらい、先に賠償金を支払ってもらうことも可能です。
また、被害者自身が加入している任意保険を使い、「人身傷害保険」「搭乗者傷害保険」を適用して賠償金を受け取る方法もあります。
それぞれ紹介していきます。
一括対応を依頼する
病院に支払った治療費を後で請求するのではなく、加害者側の任意保険会社が直接病院に支払ってくれるケースもあります。また、自賠責保険からの保険金分も一括して被害者に支払い、後で自賠責保険に対して求償を行う対応を取ることもあります。
このサービスは「一括対応」と呼ばれます。
相手方任意保険会社の担当に対し、通院する病院の連絡先を伝え、保険会社から送られてきた同意書に署名押印し、返送しましょう。
ただし、一括対応は各保険会社によって取扱い、運用方法が異なります。保険会社の義務でもありませんし、必ずしも一括対応をしてもらえるとは限らない点に注意が必要です。
特に、被害者側にも過失があり、被害者側の過失割合が大きいときには一括対応をしてもらえない可能性は高まります。また、保険会社が「それ以上の治療は不要だ」「症状は固定した」と判断したときにも一括対応をしてもらえなくなることがあります。
内払いを依頼する
一括対応同様、任意保険会社との交渉次第でもありますが、「内払い」を求めて示談成立前に賠償金を受け取れることもあります。
内払いに応じてくれやすいのは、現に出費が生まれる通院交通費や、休業損害などです。交通費の明細書、領収書などの書類、休業損害証明書や源泉徴収票などを準備して請求を求めましょう。
ただ、同じ損害賠償でも身体的・精神的苦痛への補償として支払われる慰謝料については、内払いがスムーズにいかない可能性があります。交通費のように、実際に発生した損害額を客観的に示すのが簡単ではないからです。
結局のところ内払いで請求できるものや、支払いに応じてくれるかどうかは、ケースバイケースです。仮渡金制度とは違って、請求時に損害額の計算をしておかないといけません。保険会社との交渉もありますので、交通事故に強い弁護士に依頼することがおすすめされます。
人身傷害保険の利用
以上で説明した内容は、加害者側の任意保険会社に対する請求です。
これに対して、被害者自身が任意保険に加入しているときには、自身が加入する保険会社に対しても請求できることがあります。
例えば「人身傷害保険」の契約を交わしている場合です。
保険商品の1つですので保険会社によって名称に違いはあるかもしれませんが、中身は「本人・家族が交通事故で怪我をしたときに備えて入る保険」です。ポイントは、加害者の有無や過失に依存しない点にあります。
そもそも相手方の存在を問題としていないため、示談交渉の前など関係なく、所定の手続を行うことで保険金を求めることができます。
その金額についても過失割合には関係なく、約款の規定に従って定まります。自らに重過失があった場合や、自然災害が原因である場合などには適用除外となるのが一般的ですが、もしものときの備えとして有効な保険といえます。
搭乗者傷害保険の利用
「搭乗者傷害保険」の契約を交わしていたときにも、加害者との示談とは関係なく保険金が受け取れることがあります。
搭乗者傷害保険とは、「契約車が交通事故に遭ったとき、そこに乗っていた人を対象に保険金を支払う」とする内容の保険です。
こちらも加入者自身の重過失や自然災害を原因とする損害については適用除外となりますが、相手方の存在を問題としません。相手方との示談交渉とは関係ありませんし、金額も怪我の症状や部位に対応した一定額が定まっていて損害額の計算を行う必要がないことから、早期の保険金受取が実現しやすいです。