- 保険会社から治療費を打ち切られてしまいました。もう通院をやめて示談した方が良いのでしょうか?
- 治療費を打ち切られても通院を続けるにはどうしたら良いのでしょうか?
- 治療費打ち切り後、病院が健康保険の適用を認めてくれません。自費診療にするしかないのでしょうか?
こういったご相談を受けるケースがよくあります。
治療費打ち切りに遭っても、必ずしも治療をやめるべきではありません。自己判断で通院をやめてしまうと、受け取れる慰謝料の金額が少なくなってしまうおそれもあります。
今回は交通事故で保険会社が治療費を打ち切る理由や治療費打ち切りに遭った場合の対処方法を弁護士がお伝えします。
事故後の通院中の方や保険会社から治療の終了を打診された方はぜひ参考にしてみてください。
1.治療費打ち切りとは
交通事故の治療費打ち切りとは、任意保険会社が病院への治療費支払いをやめてしまうことです。
事故後に被害者が入通院する場合、加害者側の任意保険会社が病院へ治療費を払ってくれるケースが多数です。その場合、被害者自身は窓口で治療費を支払う必要がありません。
被害者にとっては、現金を用意しなくても治療を受けられるメリットがあるといえるでしょう。
任意保険会社が治療費を支払うことを「一括対応」といいます。
一括対応では任意保険会社が病院へ治療費を支払い、自賠責保険へと請求する仕組みになっています。このように、自賠責保険についても任意保険が窓口となって一括で対応するので「一括対応」とよばれます。
ただし一括対応は延々と続くとは限りません。治療期間が一定になると、保険会社が「そろそろ治療は終了しましょう」「これ以上は治療費を支払いません」などといって治療費の支払いを打ち切ってくるケースが多数です。これがいわゆる「治療費打ち切り」です。
治療費を打ち切られるデメリットやリスク
保険会社から治療費を打ち切られると、被害者にとっては以下のようなデメリットやリスクが生じます。
窓口負担が発生する
保険会社が治療費を払ってくれている間は被害者が自分で病院に診療費を払う必要がありません。
ところが治療費を打ち切られると、被害者が自分で治療費を負担する必要があります。現金がないと治療を受けられないリスクも発生します。
治療が中途半端になって完治しない
保険会社から治療費の支払いを受けられなくなると、多くの被害者は「これ以上、治療を続けられない」と考えるでしょう。すると、本当は治療を続けた方がよくても通院をやめてしまい、治療が中途半端になってしまうおそれがあります。
示談金が低額になる
治療を途中でやめてしまうと、慰謝料や休業損害の金額が下がってしまいます。
まず慰謝料は入通院期間に応じて計算されるので、治療期間が短くなると金額が低額になります。休業損害は治療期間に仕事を休んだ日数分支払われるので、やはり治療期間が短くなると低額になってしまうのです。
慰謝料や休業損害が下がることにより、被害者が受け取れる賠償金(示談金)が全体的に低額になってしまうリスクが発生します。
後遺障害認定を受けにくくなる
交通事故の被害者にとって後遺障害等級認定は非常に重要です。
認定を受けられると高額な後遺障害慰謝料や逸失利益が払われて、賠償金が大きく増額されるケースが多いためです。
ただ治療を途中で打ち切ってしまうと後遺障害の認定を受けにくくなってしまいます。
検査結果も揃わなかったり、医師が後遺障害診断書を書きにくくなったりするためです。
以上のように治療を途中で打ち切ると被害者にとってさまざまな不利益が生じるので、保険会社から治療費打ち切りの打診があったときには安易に治療をやめないように注意が必要といえるでしょう。
2.治療費を打ち切られるタイミング
交通事故で保険会社から治療費を打ち切られやすいのは、以下のようなタイミングです。
2-1.ケガの内容によって打ち切りのタイミングが変わる
治療費を打ち切られやすいタイミングは、被害者の受けたケガの内容によって異なります。重傷なら長めに治療期間をみてもらえますが、軽傷なら早々に打ち切られるケースも少なくありません。
典型的には以下のタイミングで治療費支給を打ち切られるケースが多数です。
- 打撲の場合…1か月程度
- むちうちの場合…3か月~6か月程度
- 骨折の場合…6か月程度
保険会社によってはマニュアルが用意されていて、上記の時期が来たら個別の事案による特性を無視して「いったんは治療費打ち切りを打診すべき」とされているケースもあるようです。
ただ現実に治療を辞めるべきタイミングは個別の事故によって大きく異なります。たとえばむちうちでも治療期間が半年、1年かかる場合が珍しくはありません。
3か月経ったからといって治療をやめてしまっては、後遺障害等級認定も受けにくくなってしまいます。
上記のタイミングで保険会社から治療費打ち切りの打診があったとしても、治療期間が必要なら継続して治療を受け続けるべきです。
2-2.後遺障害等級認定に必要な治療期間
後遺症が残りそうなケースで早めに治療費打ち切りを打診された場合には、さらに注意が必要です。後遺障害等級認定には、原則として6か月程度の治療期間が必要と考えられているためです。治療期間が6か月未満では「後遺障害が残るほどのケガではない」と考えられて、認定を受けにくくなる可能性が高くなるでしょう。
またむちうちの典型的な症状である痛みやしびれの回復は早くはありません。ある程度治療期間をとらないと、改善が難しいケースが多数です。それにもかかわらず早期に治療を打ち切ると、後遺障害の有無や内容を正しく判定しにくくなってしまいます。
以上のような理由から、むちうちで後遺症が残りそうな場合には、最低でも6か月は通院を継続すべきといえます。
もちろん6か月が経過した時点で「症状固定」していなければ、さらに通院を継続すべきです。
症状固定…それ以上治療を続けても症状が改善しなくなったタイミング。患者の自覚症状も聞きながら、医師が医学的な見地から判断します。
3.治療費を打ち切られる理由
そもそも保険会社はなぜ被害者の言い分を聞かずに一方的に治療費の打ち切りを打診してくるケースがあるのでしょうか?治療費を打ち切られる理由をみてみましょう。
3-1.被害者へ公平に対応するため
まずはすべての交通事故に対して公平に対応するため、という目的があります。
確かに交通事故の具体的な態様や被害者の受けた損害内容は事故によっても異なります。しかし保険会社としてはある程度一律の対応をしなければ不公平になってしまい、不都合があります。
たとえば同じようにむちうちになったとき、Aさんのときには治療費を1年以上払ったけれどもBさんの場合には3か月で打ち切ってしまったら、Bさんは不公平な対応をされたと考えるでしょう。
そこである程度マニュアルを作成し、治療費を打ち切るタイミングをそろえる必要があるのです。
3-2.一定期間をすぎると治療を終了できるケースが多い
実際に治療期間が一定になると、治療を終了できるケースが多いことも原因の1つです。
確かに事故直後の急性期には緊急的な治療が必要となるので、治療をやめるわけにはいきません。
一方、事故後数か月が経過して症状が慢性的になってきたら、治療を継続しても改善を見込めなくなるケースが多数です。
治療をやめることができるのにいつまでも病院に通われると好ましくないので、保険会社としては治療費を打ち切って治療をやめてもらおうとする傾向があります。
3-3.支出を減らすため
治療が長引くと、任意保険会社が負担すべき治療費の金額も上がってしまいます。
後に自賠責へ請求できるとしても、自賠責保険には限度額があるので、治療期間が長引くと任意保険会社に持ち出しが発生するのです。
また治療期間が長引くと治療費だけではなく休業損害や入通院慰謝料もかさんでいきます。
保険会社も営利目的の会社なので、無制限に自社の負担を増やすわけにはいきません。
少しでも支出を減らすために治療費の打ち切りを被害者へ打診することがあります。
3-4.悪質な被害者への対応
ほとんどの交通事故被害者にはないことですが、中には「嘘をついてでもできるだけ治療期間を長くして、その分保険会社に多くの慰謝料や休業損害を払わせよう」と考える人がいます。保険会社としてもそういった悪質な被害者に対しては厳正な対応をしなければならないと考えています。
ただ保険会社からしてみると、誰が適正な被害者で誰が悪質な被害者なのか、見分けるのは困難です。そこで一定期間が経過すると、一律に治療費支給の終了を打診する対応をとっている場合があります。
以上のように保険会社が治療費を打ち切る理由にはいくつかありますが、被害者にとって預かり知らない「支出を減らすため」などの目的も含まれています。
また公平に対応するためとはいえ、個別事案を無視されて一方的に治療費を打ち切られると、被害者としては困ってしまうでしょう。
治療費を打ち切られそうになったとき、保険会社に遠慮する必要はありません。まだ治療が必要なら保険会社に訴えて治療の継続をお願いしてみてください。
4.治療費を打ち切られた場合にやってはいけないこと
保険会社から治療費を打ち切られたとき、被害者としてはやってはいけないことがあります。
4-1.自己判断で治療をやめる
絶対に避けるべきなのは「自己判断で治療をやめてしまうこと」です。
交通事故後の治療は以下のいずれかのタイミングまで続ける必要があります。
完治
ケガが完全に治って事故前と同じ程度に回復することです。完治したらそれ以上治療を続けても意味がないので、治療を終了して示談交渉を開始します。
症状固定
それ以上治療を行っても症状が改善しない状態です。症状固定した場合、完治ではないので何らかの後遺症が残っています。引き続いて後遺障害等級認定の手続きを行いましょう。
症状固定すると治療効果は見込めないので治療は終了するのが一般的です。
完治や症状固定まで慰謝料や休業損害を払ってもらえる
交通事故でケガをした場合には、完治または症状固定時までの分の休業損害や慰謝料を払ってもらえます。
早期に治療を打ち切るとその分支払額が減額されて、被害者が不利益を受けてしまうのです。
たとえばむちうちや骨折で10か月通院したら、145万円程度の入通院慰謝料が払われる可能性があります。
一方、保険会社から治療費を打ち切られて3か月で通院をやめると入通院慰謝料は73万円程度にまで減額されてしまいます。
同じ事案でも治療を早期に打ち切るかどうかだけで大きく慰謝料額が変わるので、治療費を打ち切られたときに安易に治療を打ち切るのだけはやめましょう。
治療を続けるべきかどうか悩んだときには、自己判断せずに交通事故に詳しい弁護士に相談してみてください。
4-2.保険会社とトラブルを起こす
保険会社から治療費の打ち切りを打診されたとき、「まだ治療を受けたいのになぜ打ち切るのか?」と感情的になって保険会社の担当者に詰め寄る方がまれにいます。
しかし保険会社と喧嘩をしたりトラブルを起こしたりしても、解決にはつながりません。
保険会社側から一方的に治療費を打ち切られてしまうでしょう。
治療を続けたいなら、話し合いの姿勢を持つべきです。なぜ治療が必要なのかを資料をもって明確にして、治療費支払いの継続を打診しましょう。
4-3.治療終了時期を判断する方法
完治または症状固定までは治療をやめるべきではありませんが、誰が治療を終了するタイミングを決めるのか、という問題があります。
治療終了時期を決めるのは、保険会社ではありません。完治や症状固定については医学的な判断が必要なので、医師の判断事項となります。
ただし保険会社は医師と相談のうえで治療費打ち切りを打診しているわけではないので、被害者が自分で医師に「いつ治療を終了すべきか」確認すべきです。
医師が「まだ治療が必要」と判断したら、たとえ保険会社による治療費支払いを打ち切られても治療を継続しましょう。
なお医師が治療終了時期を判定するときには、患者の自覚症状も参考にしてくれます。
自覚症状とは、痛みやしびれなどの患者が感じられる症状です。むちうちなどになって何らかの症状が継続しているなら、遠慮せずに医師に伝えて「治療をもう少し続けたい」と希望を伝えてみましょう。
5.治療費を打ち切られたときの対処方法
もしも治療費打ち切りの打診を受けたり実際に治療費を打ち切られたりしたら、被害者としてはどのように対応すべきなのでしょうか?
以下で望ましい対応方法をお伝えします。
5-1.医師に診断書や意見書を作成してもらう
治療を終了すべきタイミングを決めるのは、最終的に医師です。
保険会社も医師の判断内容であればある程度尊重します。
治療費打ち切りの打診を受けて「まだ治療を続けたい」と考えるなら、医師に診断書や意見書を書いてもらいましょう。
医師による書面を保険会社へ提出すれば、治療費支払いを一定期間継続してもらえる可能性があります。
5-2.健康保険を使って治療を受ける
医師の診断書などの資料があっても、保険会社側の判断で治療費を打ち切られてしまうケースはあります。
そんなときには、まずは医師に「本当に治療をやめなければならないのか?」と聞いてみてください。
医師がまだ症状固定や完治していないと判断するなら、治療を継続すべきです。
健康保険を適用するメリット
治療を継続する場合に注意すべきなのは「治療費の支払い方法」です。
保険会社が治療費を払っている場合、自賠責保険が適用されるので「自由診療」となっています。自由診療の場合、点数を基本的に自由に設定できるので健康保険より高額になるケースがほとんどですし、10割負担となるので被害者の負担額がかなり高額になってしまいます。
被害者が打ち切り後に継続治療を受けるときには健康保険を適用してもらいましょう。
健康保険であれば固定の点数計算方法が適用されますし、3割負担となるので被害者の負担額が小さくなります。
交通事故の治療に健康保険を適用する方法
交通事故後の治療に健康保険を適用するには、病院で健康保険の適用を認めてもらう必要があります。
ただ法律上や制度上、交通事故の治療にも健康保険を適用できる仕組みになっています。厚生労働省や旧厚生省からも「交通事故の治療に健康保険を使える」といった通達が出されています。断られる理由はないといってよいでしょう。
しかし病院によっては「交通事故の治療に健康保険を使えない」といってくるケースがあるので鵜呑みにしないよう注意しなければなりません。もしも病院から健康保険の適用を断られたら「法的根拠がない」「交通事故にも健康保険を使えるはず」といって交渉してみてください。
それでもどうしても健康保険の適用を受け入れてもらえない場合には、別の病院への転院を検討しましょう。交通事故の治療に健康保険を使えない根拠はないので、全国に健康保険を適用してくれる病院はたくさんあります。
第三者行為による傷病届を用意する
交通事故の治療に健康保険を使うには、保険組合や自治体へ「第三者行為による傷病届」を提出しなければなりません。書式は各保険組合や自治体で用意されているので、入手して自分で作成しましょう。
書き方がわからない場合には、弁護士までご相談ください。
5-3.労災なら労災保険も使える
交通事故が労災の場合には、労災保険を適用して治療費を払うこともできます。
労災保険が適用される場合には、労災保険が治療費を全額病院へ払ってくれるので、被害者に自己負担が発生しません。
自動車保険のように途中で打ち切りを打診されるおそれもないので、安心して最後まで治療を継続できます。
自賠責保険を適用していても、途中で労災保険へ切り替えることができるので、交通事故が労災に該当するなら労災保険の適用を申請するようおすすめします。
なお交通事故が労災になる典型的な事例は以下のような場合です。
- 営業車で交通事故に遭った
- 外回り営業中に車やバイクと接触した
- 運送会社の運転手が運送中に事故に遭った
- タクシーやバスの運転手が業務中に事故に遭った
- 通勤や退勤途中で運転中や同乗中に事故に遭った
労災保険を適用できるかどうかわからない場合、弁護士に相談しましょう。
5-4.治療費を払うお金がないときの対処方法
交通事故後に治療費を打ち切られたとき、被害者の手元にお金がないので病院へ通えないケースもあります。治療費がかさんで手元にお金がなくなり、生活費に困ってしまう方もおられるでしょう。
そんなときには以下の方法を検討してみてください。
自分の自動車保険を利用する
まずは自分が加入している自動車保険の内容を確認しましょう。
たとえば以下のような保険に入っていたら、治療費の支給を受けられる可能性があります。
搭乗者傷害保険
契約者や同乗者が交通事故でケガをしたときや死亡したときに支払いを受けられる保険です。
入院1日○○円、通院1日○○円などと定額計算になっていて、比較的支払いを早く受けられるメリットがあります。
搭乗者傷害保険から保険金を受け取ったら、そのお金を治療費や生活費にあてることができます。
人身傷害補償保険
人身傷害補償保険も搭乗者傷害保険と同様に、契約者や同乗者が交通事故で負傷または死亡した場合に支払いを受けられる保険です。
ただし損害が確定してからの支払いになるので、支払時期は遅くなる傾向があります。
自動車保険以外の保険内容を確認する
自動車保険以外の保険を使える場合もあります。
たとえば傷害保険に加入していたら、ケガの治療費を出してもらえる可能性があります。
交通事故に遭ったら、自分の加入している保険の契約内容をしっかりチェックしましょう。
自賠責の仮渡金を受け取る
自賠責には仮渡金制度が用意されています。
仮渡金制度とは、示談成立前に自賠責が被害者へ一定額を先払いする制度です。
任意保険会社が治療費を払ってくれないけれど手元にお金がない場合や生活費が不足している場合などには、自賠責へ被害者請求をして仮渡金を受け取ることも検討しましょう。
5-5.弁護士に相談する
交通事故で保険会社とトラブルになったときには、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士が対応すると、トラブルを解決できるケースが多いためです。治療費の支払いを継続してもらえる可能性もアップしますし、後遺障害等級認定の手続きや引き続いての示談交渉も任せられます。
示談交渉を任せると慰謝料の金額が増額されるケースが多いので、被害者が受け取れる金額が大きくなるメリットも期待できます。
- 治療を続けたいけれど自分では交渉できない
- 保険会社の担当者とのやり取りを専門家に任せたい
- 事故対応がストレスになっているので弁護士に対応してもらいたい
- 慰謝料を含めた賠償金はなるべく高額な方が良い
こういったご希望をお持ちの方は、早めに弁護士へ相談しましょう。
横浜クレヨン保険会社では交通事故の被害者サポートに非常に力を入れています。
治療費打ち切りを打診されてお困りの方がおられましたら、自己判断で治療をやめてしまう前に、お早めにご相談ください。