交通事故で怪我を負った場合、状態によっては「後遺障害」として認定される可能性があります。この場合、損害賠償請求の金額が変わってきます。そのためこの認定を受けるかどうか、そしてその制度に関してもよく知っておくことが大切です。
ここでは「後遺障害って何?」と疑問を持つ方に向けて概要を説明するとともに、慰謝料など請求額への影響、また、認定に向けた申請の方法なども解説していきます。

後遺障害等級の認定制度について

一般用語としてよく使われる「後遺症」と、ここでいう「後遺障害」は厳密には異なります。
後遺症と呼ぶ場合、怪我または病気によって治療後も残った機能障害・神経症状などを指すことが多いです。他方、後遺障害では原因が交通事故に限定され、また、労働能力の低下があること、そして自賠責保険における等級への該当などが要件とされます。

後遺障害の等級別基準

後遺障害の有無は、損害賠償額の算定において非常に重要です。
交通事故による被害額を厳密に計算することは難しく、特に身体への影響を金額として評価するのは簡単ではありません。そこで制度として後遺障害の等級を設け、等級別に賠償額なども区別しているのです。

後遺症の程度が重い順に第1級~第14級まで設けられており、第1級に近いほど請求できる金額は大きくなります。
簡単に等級別の後遺障害の内容を下表にまとめます。

等級 後遺障害の内容
第1級 ・両眼が失明した
・咀嚼及び言語の機能を廃した
・両上肢をひじ関節以上で失った
・両下肢をひざ関節以上で失った
第2級 ・両眼の視力が0.02以下になった
・両上肢を手関節以上で失った
・両下肢を足関節以上で失った
第3級 ・一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になった
・咀嚼又は言語の機能を廃した
・両手の手指の全部を失った
第4級 ・両眼の視力が0.06以下になった
・咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残す
・両耳の聴力を全く失った
第5級 ・一眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になった
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができない
第6級 ・両眼の視力が0.1以下になった
・咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残す
・両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になった
第7級 ・一眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になった
・神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができない
・外貌に著しい醜状を残す
第8級 ・一眼が失明し、又は一眼の視力が0.02以下になった
・脊柱に運動障害を残す
・一足の足指の全部を失った
第9級 ・両眼の視力が0.6以下になった
・両眼のまぶたに著しい欠損を残す
・鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残す
・一耳の聴力を全く失った
第10級 ・一眼の視力が0.1以下になった
・十四歯以上に対し歯科補綴を加えた
・一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になった
第11級 ・一眼のまぶたに著しい欠損を残す
・十歯以上に対し歯科補綴を加えた
・両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になった
第12級 ・一耳の耳殻の大部分を欠損した
・鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残す
・一手の小指を失った
・外貌に醜状を残す
第13級 ・一眼の視力が0.6以下になった
・両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残す
・胸腹部臓器の機能に障害を残す
第14級 ・一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残す
・一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になった
・局部に神経症状を残す

(出典:厚生労働省https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/jibai/payment_pop.html)

視力がどれほど低下したのか、また、腕や足、指の欠損、言語能力などは特に重視されていることがわかります。
続いて聴力の程度、外観の損傷、歯の損傷なども程度に応じて等級が区分されています。

他にも後遺障害の内容は定められていますが、ここでは簡単のため一部を抜粋して記載しています。

損害賠償額の基準

後遺障害の有無、等級に応じて請求できる損害賠償額の相場は異なります。
ただ、相場にも大きく3パターンあり、それぞれに「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準」と呼ばれています。

自賠責保険基準

自賠責保険基準とは、自賠責保険によって支払われる場合の算定基準です。
自賠責保険は交通事故被害者に対し最低限の救済を保障する趣旨で設けられたものであり、相手方が任意保険に加入しておらず資力もない場合などでも最悪ここから支払いを受けることが可能です。
ただし、必要最低限の救済しか得られませんので、損害分を十分に補うほどの金銭が得られるとは限りません。
賠償額の限度額も決められており、それ以上の損害が生じていたとしてもその部分に関しては自分で負担せざるを得なくなります。

任意保険基準

任意保険基準は、事故を起こした加害者が加入している保険会社別に定められている基準のことです。

基本的には自賠責保険基準を上回る基準となっており、より金銭的な救済は得やすいと言えます。ただし、この基準をもってしても満足にいく救済が受けられるとは限りません。
そもそも会社が内部的に定めている基準に過ぎませんので、こちらの救済を第一に考えてくれるわけでもありません。後遺障害の等級に応じてそれなりの増額はなされますが、納得いく結果にならない可能性が残ります。

なお、自賠責と異なりその基準に従わなければならないというものでもありませんので、不服がある場合には相手方の求めに応じない姿勢も大事です。このときには次の弁護士基準による救済が受けられるよう行動を起こしましょう。

弁護士基準

弁護士基準は、弁護士に依頼して相手方に損害賠償請求をしたときの基準・相場などを指します。
場合によっては裁判を要することになるため、「裁判所基準」と呼ばれることもあります。この基準は、これまでの事例により積み重ねられてきた相場とも言え、過去事例とのバランスも考慮しつつ賠償額は決定していくことになります。
ただ、自賠責保険基準や任意保険基準などに比べれば高額になる傾向がありますので、被害者としてはこちらの基準での解決を図ると良いです。

後遺障害から算定される慰謝料と逸失利益

後遺障害の等級から算定されるものとして、「後遺障害慰謝料」「逸失利益」があります。
後遺障害慰謝料は「損害賠償のうち後遺症由来の精神的負担に対する賠償金」であり、逸失利益は「将来得られるはずが、得られなくなったと想定される収入に対する賠償金」のことです。

後遺障害慰謝料に関しては等級に応じて基準が定められており、比較的算定が容易です。
他方、逸失利益に関しては被害者の収入や年齢によって損害額は異なりますので、下の計算式にあてはめて考える必要があります。

基礎収入額 × 労働能力喪失率 × ライプニッツ係数

「基礎収入額」には交通事故以前の収入額が代入されます。
そして「労働能力喪失率」で後遺障害の等級が効いてきます。最も重度である第1級であれば100%、比較的軽度である第12級であれば14%などと設定されています。
そして「ライプニッツ係数」ですが、これは将来の収入を前もって取得した利益への控除として掛け算される係数です。年齢から計算される労働能力喪失期間に対応する係数をこの計算式に代入します。

後遺障害認定への申請方法

障害を負わなかったとしても、治療費や入通院慰謝料などは請求できます。しかし、後遺障害の認定を受けることで、等級に応じた後遺障害慰謝料や逸失利益分が上乗せされる形で請求できます。

その請求のためにも、後遺障害認定に向けた申請を行わなければなりません。自己申告で自動的に反映されるわけではないのです。

手続きの方法は「事前認定」と「被害者請求」の2パターンありますので、それぞれ説明していきます。

被害者請求

事前認定と被害者請求、いずれにしてもまずは治療を行い、症状の固定までさせなければなりません。

事故で負った怪我を治療し、検査やリハビリを継続。これ以上の回復が見込めない状態にまで至れば、医師に「症状固定」の診断を受けるのです。これが認定のための前提条件です。
そして「後遺障害診断書」を作成してもらいましょう。これが後遺障害等級の認定を左右する重要な資料となります。
ただ、医師は後遺障害の申請に関してプロではありませんので、認定の審査という観点では項目の記載が不十分であることもあり得ます。そこで、後遺障害診断書を作成してもらったとしても、弁護士に内容をチェックしてもらったほうが良いでしょう。
また、加害者側の任意保険会社が治療費打ち切りを急かし、早期に症状を固定させようとすることもあります。こうしたやり取りに対しても適切な対応をしていかなければなりませんし、その観点からも弁護士に依頼しておくことがおすすめされます。

手続に必要な書類が集まれば、自賠責保険会社に対して請求を行い、各種書類を提出します。保険会社が内容を確認し、さらに損害保険料率算出機構へ送付をします。損害保険料率算出機構は送付された診断書等の書類をもとに審査を実施。審査結果は自賠責保険会社に報告され、自賠責保険会社が当該調査結果を踏まえて等級認定を行います。その後等級認定の結果は被害者に通知されます。

被害者請求の場合、自分で書類を用意しなければならず、手間がかかるのがデメリットです。事故後、心身ともにダメージを追っている状態でこうした手続きを行うのは負担となるでしょう。
他方、次に説明する事前認定のように加害者側任意保険会社に任せるわけではないため、手続きの透明性という意味では安心感が得られます。また、弁護士に依頼することで手続きにかかる手間は小さくすることができます。

事前認定

事前認定とは、被害者本人ではなく加害者側任意保険会社が申請を行う認定方法です。
この場合、被害者は後遺障害診断書の提出だけでよく、残りの必要書類に関しては任意保険会社に任せることができます。
そのため手間がかからないというメリットがありますが、資料への不備など、不安要素が残ります。

なお、診断書提出後の流れとしてはおおむね被害者請求と同じで、その後保険会社は資料を損害保険料率算出機構に提出し、結果を受けることになります。

任意保険会社に任せるのが不安だという場合にはこちらの方法を採用せず、弁護士に依頼するなどして対応すると良いでしょう。