「むちうち」は交通事故でもっとも多いとされる症状です。
事故後にむちうちになった場合、どのくらいの保険金が支払われるものでしょうか?

同じ「むちうち」でも具体的な症状の内容や程度、治療期間や後遺障害認定を受けられるかどうかなどの事情により、請求できる金額が大きく変わってきます。

今回はむちうちの症状で払われる保険金の内容、治療費や慰謝料を中心に弁護士が解説します。

1章 交通事故による首の痛みやめまい。それって「むちうち症」では?

交通事故に遭うと、首や背中に痛みが発生したり、手足がしびれたり、あるいは異常に肩が凝りやすくなったりする方が多数おられます。痛みのために首を動かせなくなるケースや頭痛、耳鳴りやめまいが発生するケースも少なくありません。

こういった症状は典型的な「むちうち」です。
事故後に症状が出たら「気のせいかもしれない」と思わずに、すぐに病院を受診しましょう。

むちうちのよくある症状

  • 首が痛い、動かしにくい
  • 背中が痛い
  • 背中や肩が凝る
  • 腕や手、下半身のしびれ感
  • 頭痛、頭重感
  • めまい、耳鳴り
  • 吐き気、食欲不振
  • 便秘や下痢

雨の日に症状が強くなる方もおられます。

むちうちの症状の種類

ひとことで「むちうち」といっても、いろいろな種類があります。
「むちうち」は医学的な診断名ではなく、「外傷によって頚椎や神経などに損傷が生じた場合の症状」の一般的な通称に過ぎません。

医学的には以下のように分類されます。

頚椎捻挫、外傷性頸部症候群

頚椎捻挫や外傷性頸部症候群は、もっとも多いむちうちの症状です。
事故の衝撃によって首の筋肉や靱帯組織などが損傷を受け、炎症を起こしてしまった状態をいいます。
典型的には「首の痛み」や「首を動かしにくい」「背中や肩の凝り」などの症状が出ます。

交通事故後のむちうちの多くは、頚椎捻挫や外傷性頸部症候群と診断されます。

バレ・リュー症候群

バレ・リュー症候群は、事故の衝撃で自律神経まで損傷してしまう傷病です。
首や肩、背中だけではなく頭痛や吐き気、めまいや耳鳴り、不眠などの症状が出るケースもあります。

神経根損傷型

むちうちの「神経根型」とは、事故の衝撃によって神経根にまで損傷が及んだ状態をいいます。神経根とは、脊髄から手足などの体の各部分へ分かれていく部分です。
首から手指にかけての痛みやしびれ、顔面や後頭部の痛みなどが生じるケースが多く、「頚椎症性神経根症」「頚椎椎間板ヘルニア」などの診断名がつきます。

脊髄損傷型

事故の衝撃で損傷が脊髄にまで及んでしまったケースです。
むちうちで脊髄を損傷するケースは少数ですが、症状としては非常に重くなります。

腕や脚の麻痺、腕や脚の強い痛み、感覚障害、排尿排便障害、歩行障害などが発生するケースもあります。

診断名は「頚髄症」「脊柱菅狭窄症」「脊髄不全損傷」「頚椎椎間板ヘルニア」「変形性頚椎症」「後縦靭帯骨化症」などです。

脳脊髄液減少症

脳脊髄的減少症とは、脳を覆う膜(くも膜など)に穴が空いて、脳を覆う髄液が外へ漏れ出してしまう症状です。起立すると強い頭痛が発生するのが典型的な症状で、他には首の痛み、めまいや耳鳴りなどが発生するケースもあります。

物損事故として届け出てしまった場合

むちうちになった場合、事故現場では自覚症状がないためケガをしたことに気づかない方も少なくありません。
「物損事故」として届け出てしまい、後から痛みが出たらどうすればよいのでしょうか?

いったん物損事故として届出をしても、早い段階であれば切り替えが可能です。
病院へ行って医師に診てもらい、診断書を書いてもらいましょう。
診断書を警察へ持参すれば、物損事故から人身事故への切り替えができます。

ただし事故から間があくと切り替えを受け付けてもらえなくなってしまうので、症状が出たら「すぐに病院へ行く」ことが重要です。

保険会社へ保険金を請求する方法

事故でむちうちになったとき、通常は保険会社が病院へ治療費を直接支払ってくれます。治療が終了したら示談をして、成立すれば保険金が払われる流れとなります。

ただしいったん物損事故として届け出てしまった場合、人身事故扱いにしてもらえない可能性があります。すぐに警察で切り替えができれば良いのですが、遅れて切り替えができなかったケースでは問題が発生します。
そういった状況になったら、保険会社へ「人身事故証明書入手不能理由書」を提出しましょう。
この書類が受け付けられたら、警察では物損事故扱いでも保険会社では人身事故扱いしてもらえて、治療費や慰謝料などの保険金を請求できます。

2章 交通事故のよる「むちうち症」での治療費は保険金で支払われる?

交通事故でむちうちの症状が出たら、病院で治療を受けなければなりません。
治療費がどこまで認められるのか、みてみましょう。

治療費は必要かつ相当な範囲で支払われる

交通事故のケガによってかかった治療費は、基本的に加害者側へ請求できます。
事故がなかったら治療費は不要だったのであり、治療費は「事故によって発生した損害」といえるからです。

ただし支払われる治療費は「必要かつ相当な範囲」に限定されます。
具体的には以下のような費用を請求できると考えましょう。

  • 病院でかかった診察代、検査費用、手術代、入院費用、処方箋代、検査費用
  • 薬局で支払った薬代

整骨院への通院費用について

むちうちの症状には整骨院における施術が有効なケースも少なくありません。
ただし整骨院の治療費は全額支払われるとは限らないので、注意が必要です。
整骨院の先生は「柔道整復師」であり、医師ではありません。治療のために本当に必要と言えるかどうかが慎重に判断されます。

整骨院の費用を請求できるのは、担当医が「整骨院における治療を必要と判断した場合」あるいは「整骨院への通院を許可した場合」です。
自己判断によって無断で整骨院に通院しても、保険会社は治療費を払わない可能性があるので注意しましょう。

交通事故でむちうちになったら、まずは整形外科へ行って医師の診察や治療を受けるべきです。その上で、症状が落ち着いた頃に医師に相談して、同意を得て整骨院に通えば治療費を払ってもらいやすくなります。

なお医師の同意を得た場合でも、整骨院への通院期間があまりに長くなってくると、治療費を打ち切られる可能性があります。

治療費は保険会社が病院へ直接支払う

事故後に病院へ通院する場合、一般的には保険会社が病院へ直接治療費を支払ってくれます。これを「一括対応」といいます。
任意保険会社が一括対応する限り、被害者は窓口で治療費を払う必要はありません。

なお保険会社が病院へ治療費を払うに先立って、保険会社から「同意書」の提出を求められる可能性があります。同意書は、保険会社が被害者の個人情報や診療情報を入手することに被害者が同意する書面です。

保険会社が病院へ治療費を支払う場合、治療にかかった金額や診療の内容などの情報を病院へ照会しなければなりません。
こうした情報は本人が同意しなければ取得できないので、事前に同意書を要求するのです。
同意書を提出すると、保険会社へ治療状況を知られてしまいますが、治療費を直接払ってもらうために提出する必要があります。

治療費を途中で打ち切られるケースも多い

むちうちになった当初は保険会社が病院へ直接治療費を払っていても、治療期間が長くなると支払いを打ち切られるケースが多々あります。
被害者としてはまだ症状が継続していて「治療を続けたい」と考えているのに、突然打ち切られてトラブルになってしまう事例も少なくありません。

治療費を打ち切られた場合の対処方法

保険会社に治療費を打ち切られたら、まずは医師に「症状固定」したかどうか尋ねてみましょう。症状固定とは、それ以上治療を行っても症状が改善しなくなった状態です。
症状固定したら、治療をやめて後遺障害認定の手続きを行います。
一方、症状固定していなければ、症状固定時まで通院を継続すべきです。

もしも医師から「症状固定していない」と言われたら、自分で治療費を払って通院を継続しましょう。ただし保険会社が支払いを打ち切った後は「10割の自由診療」になって負担が重くなるので、健康保険に切り替えるようおすすめします。

自分で払った治療費は後から請求できる

保険会社が治療費を払ってくれないために被害者が自分で病院へ支払った場合、後で示談するときに保険会社へ請求できます。
示談が成立しない場合でも、訴訟を起こせば裁判所が必要かつ相当な範囲の治療費を支払うよう、保険会社へ命じてくれます。

ただし治療費を後から請求するには証拠が必要です。病院で支払いをしたときの診療報酬明細書を全部とっておきましょう。
交通費も請求できるので、駐車場代や高速代金の領収証やクレジットカードの明細書なども一緒に保存しておいてください。

3章 むちうちが治らなかったら後遺障害等級認定を受ける

交通事故でむちうちになると、治療を受けても完治しない方がいらっしゃいます。
完治せずに後遺症が残ったら「後遺障害等級認定」を受けましょう。

後遺障害等級認定とは、交通事故で残った後遺症を症状や程度に分類して「等級」というランクをつける制度です。
自賠責保険や共済が後遺障害等級認定の手続きを行っています。

後遺障害等級認定を受けると、認定された等級に応じて以下の2種類の保険金が払われます。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったために被害者が受ける精神的苦痛への賠償金です。
認定された等級が高くなるほど慰謝料額も上がります。
むちうちの場合の後遺障害慰謝料は、110万円程度(14級の場合)または290万円程度(12級の場合(こちらはめったにありません))となるケースが多数です。

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益は、後遺障害が残って労働能力が低下したために失われた将来の収入に対する補償です。
後遺障害が残ると健康なときのように働けなくなり、生涯収入が低下すると考えられるので、逸失利益が払われます。

逸失利益の詳しい計算方法は後で説明しますが、やはり等級が高くなるほど金額も上がります。

4章 交通事故によるむちうちで請求できる慰謝料

交通事故でむちうちの症状が出たとき、加害者へ請求できる慰謝料は以下の2種類です。

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、事故でケガをして被害者が受けた精神的苦痛に対する賠償金です。

交通事故でケガをすると、被害者は恐怖や痛みを感じ、大きな精神的苦痛を受けるでしょう。そこで、ケガをした場合には入通院期間に応じて入通院慰謝料が発生します。「傷害慰謝料」とも呼ばれます。

むちうちで後遺障害が残らなくても、入通院さえすれば入通院慰謝料は請求可能です。

入通院慰謝料の金額は、自覚症状のみか他覚症状もあるかによって変わります。
自覚症状とは「痛い、しびれる」など患者が自覚する症状、他覚症状とは「MRIやレントゲンに異常がある」など客観的に第三者が把握できる症状です。

自覚症状しかない場合、他覚症状がある一般的なケースと比べて入通院慰謝料が3分の2程度に減額されます。

たとえばむちうちになった場合の通院期間が3か月の場合、自覚症状しかなければ慰謝料は53万円程度ですが、他覚症状もある場合には73万円程度です。
ただし、MRI上で異常がある(ヘルニアや椎間板膨隆、狭窄症)といった所見では、任意保険会社は「他覚症状」と扱わないことがほとんどです。「他覚所見」として扱われるには、明確に、交通事故によって生じた外傷性のものであるという診断書が必要になってきます。

後遺障害慰謝料

むちうちで後遺障害認定を受けられたら、後遺障害慰謝料を請求できます。
後遺障害慰謝料は入通院慰謝料とは別途支払われるので、後遺障害等級認定を受けると請求できる慰謝料額が大きくアップするといえるでしょう。

12級の場合の後遺障害慰謝料は290万円程度、14級の場合には110万円程度が相場です。

5章 むちうち症の後遺障害の慰謝料相場は?

むちうちの症状が出たときの後遺障害慰謝料の相場について、もう少し詳しくみてみましょう。

12級の場合に290万円、14級の場合に110万円をお伝えしましたが、こちらは「弁護士基準」による数字です。
保険会社が適用する「保険会社基準」の場合、金額が大幅に下がります。自賠責保険基準の場合、12級で94万円、14級で32万円です。任意保険会社が示談交渉するときに適用する任意保険基準の場合でも12級で100万円程度、14級で40万円程度にしかなりません。

弁護士基準を適用すると保険会社基準に比べて慰謝料額が3倍近くにアップするので、むちうちになったときの示談交渉は弁護士に依頼するのが得策といえるでしょう。

6章 むちうち症の逸失利益額と請求方法

むちうちで有職者や主婦などの方や子どもが後遺障害認定を受けると、相手に逸失利益を請求できます。
以下では逸失利益の計算方法をみてみましょう。

逸失利益の計算式

逸失利益は以下のようにして計算します。

事故前の基礎収入(年収)×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

事故前の基礎収入について

事故前の基礎収入については、基本的に「事故前に得ていた実収入(年収額)」を基本とします。
主婦や主夫の方の場合、全年齢の女性の平均賃金を採用します。子どもの場合、男子なら男性の平均賃金、女子なら男女の平均賃金を用いて計算するケースが多数です。

労働能力喪失率について

労働能力喪失率とは「どの程度労働能力が失われたか」という割合です。
認定された後遺障害の等級が高いほど労働能力喪失率が高くなります。

標準的に12級の場合に14%、14級の場合に5%です。

ライプニッツ係数について

ライプニッツ係数とは、将来分の収入を先払いとして一括で受け取れる利益を調整するための数値です。

来、交通事故後の収入は毎月、毎年何年にもわたって分割で受け取るものですが、逸失利益を払ってもらう場合、まとめて先払いを受けられます。
すると、運用利益(中間利息)が発生してしまうので、その分を差し引きする必要があると考えられているのです。

現在の民法では、年率3%の法定利率をもとにライプニッツ係数が計算されます。

また「就労可能年数」は基本的に「67歳になるまでの年数」ですが、むちうちの場合、自然に症状が寛解していく可能性があるため、就労可能年数が短縮されるのが一般的です。

14級になった場合の就労可能年数は5年程度、12級の場合には10年程度としてライプニッツ係数を求めます。

逸失利益計算の具体例

年収500万円の35歳会社員が事故でむちうちになり、後遺障害14級が認定された
 →500万円×5%×4.3295(5年に対応するライプニッツ係数)=108万2375円

年収500万円の35歳会社員が事故でむちうちになり、後遺障害12級が認定された
 →500万円×14%×7.7217(10年に対応するライプニッツ係数)=540万5190円

7章 まとめ

交通事故でむちうちの症状が出たら、すぐに病院へ行って医師による診察や検査、診断を受けましょう。治療は症状固定時まで継続し、後遺症が残ったら後遺障害等級認定を申請する必要があります。

むちうちになった被害者の方がお一人で対応すると、保険会社のペースで示談が進んでしまい、低額な保険会社基準が適用されるなどして不利になってしまうケースも少なくありません。適切な等級の後遺障害認定を受けて保険金を請求するには、弁護士によるサポートが必要です。

横浜クレヨン法律事務所では交通事故被害者さまへの支援に積極的に取り組んでいますので、お困りの際にはお気軽にご相談ください。