仕事で使っていた車が交通事故にあってしまって、車が使えなくなったために売り上げが減ってしまった…そんな場合に、保険会社に請求すべきなのが「休車損害」です。
休車損害とは、事故に遭った車が営業車で代替車両を用意することができない場合に、その営業車を使用できないために減ってしまう営業利益のことを指します。
どういった場合に休車損害を加害者に請求できるのか、また請求できるとしてその額はいくらになるのかを簡単にご説明します。

●この記事でわかること●

  • 休車損害についての基本がわかる
  • 休車損害がどんな時に請求できるかがわかる
  • どうすれば休車損害が請求できるかがわかる
  • どのように休車損害を計算するかがわかる

休車損害とは?

交通事故により、車両が損傷した場合は、修理または買替完了までの間は車両を営業に利用できなくなります。営業用車両は、許可のない自動車を代替して使用することは許されないので、車両の修理・買替の期間はその車両による営業利益をあげられなくなります。
 この期間に、車両が稼働しなかったことによって、本体は得られたはずなのに得られなくなってしまった利益を休車損害といいます。

どのような場合に休車損害が認められるか

休車損害が認められるためには、先に述べましたとおり、事故に遭った車両が貨物自動車やタクシーなどの営業用車両であることが前提となります。
営業用車両でない場合は、代車を確保することが容易であり、代車費用さえあれば損害が発生しないと考えられているからです。

ワンポイント

営業用車両とは、必ずしも緑ナンバーである必要はありません。しかし、緑ナンバーは、車両ごとに個別に営業車として登録がしてあるので、他に車が無いということを立証しやすいのです。白ナンバーの場合、保険会社の「他の車を使えばいいじゃないですか。」という主張を崩すのが難しくなるというわけです。

被害車が営業用車両であることを前提に、休車損害が認められる条件は以下の通りです。

  • 事故日以降も事故車を利用する使用する業務がないこと
  • 遊休車(事業未従事車両)が存在しないこと

の2つが必要になります。
この点、一番争いになりやすいのは、遊休車の有無です。
遊休車や他の車両を代替車両として営業に利用できるのであれば、損害は発生しないことになります。
もっとも、遊休車があると常に休車損害が否定されるわけではありません。
裁判例の中には、遊休車が存在したとしても、通常の業務と同程度の裁量をもって、遊休車や他車両を利用すればよく、無理をしてまでも遊休車や他車両を利用する必要はないとしているものもあります(大阪地裁平成10・12・17)。
遊休車がないことは、請求者、すなわち被害者が証明しなければいけません。

それでは、具体的にどのようにして遊休車がないことを説明すればいいでしょうか。

まず、第1段階として、事業者の保有車両の一覧を明らかにし、実際に利用   
していない車両や稼働率の低い車両が存在しないかを明らかにすることにな    
るでしょう。

ワンポイント

保有している車両には、保険契約をしていることがほとんだと思いますので、ご自身の保険会社が、車両保険に入っている車両の一覧表を持っていたりしますので出してもらうと良いでしょう。

次に、利用していない車両や稼働率の低い車両がある場合は、①各車両のドライバーが専属であることや②他車両は利用用途や所属営業所がちがうことこと③事故車と他車両の車種や装備がちがうことなどを説明していくことになります。事業者の状況や事業に応じて、他の車両を事故車の代わりに利用することが困難であることを資料を示しながら説明していくことになるでしょう。

裁判例

全国展開している引越運送業者において、事故に遭った支社以外の支社に遊休車があったとしても、実質的に支社ごとの独立性採算性を採用しており、配車も支社ごとに行われていることから、他支社の遊休車までも代替車両として利用しなくてもよいとされた裁判例があります(東京地裁平成21・7・14)。

休車損害はどうやって計算するの?計算方法について教えます。

休車損害が認められるとして、その額はいくらになるでしょうか。
  休車損害は実際には発生していない利益を計算しなければいけないため、事案に応じての計算が必要になりますが、一般的には以下の方法で計算します。

(①事故車両の売上-②支出を免れた変動経費)×③休車期間

①売上の計算の仕方

売上の計算については、事業者の売り上げに関する帳簿などが必要になってきます。車両ごとの事故前3か月の売上を基に計算することが一般的ですが、一年間に繁閑がある場合は1年間の売上を基に計算することもあります。
車両と売上や経費が紐づけされたデータが備え付けられている場合はこれらの計算も正確なものになるでしょうが、これらのデータがない場合は事業日報や事業報告、実績報告書等からの抽出が必要になり、また、その金額についても争いになる可能性があります。
なお、売上についても経費についても消費税は算入しないのが一般的です。

支出を免れた変動経費に含まれるもの

支出を免れた変動経費の代表的なものとしては、ガソリン代や道路使用料、修繕費があります。

人件費については事案ごとの判断が必要になります。運転手の人件費については実際に支出され、かつ無駄になった場合は固定経費であり、支出を免れたとはいえないため、控除しないことになります。
しかし、運転手が他の業務に携わっていた場合は無駄になったとはいえず、他の業務に従事する者への支払いを免れているとして控除されることもあります。
一方で、人件費のうち乗務手当等のみを変動経費として控除すべき経費とし、他の人件費は固定経費であることから控除すべきでないと考えることもできるでしょう。それぞれの運転手と業務の内容ごとに考えていく必要があります。

裁判例

事故車両を専属的に運転していた運転手が、車両の修理中に他の車両に助手としてのみ乗車していた事案において、これを「形だけの業務」としてこれらの業務によって「他の助手や運行管理者に対する給与の支払を免れたわけでもな」いとの理由で、事故車の専属運転手の給与については一切控除すべきでないとした裁判例があります(札幌地裁平成11・8・23)。
一方で、事故車両の運転手が稼働できなかったことにより、事業者が「休日手当」、「出張手当」、「調整手当」、「時間外手当」といった手当の支払いを免れるとして、その手当分を変動利益として控除した裁判例もあります(東京地裁平成18・8・28)。

③休車期間の計算の仕方

期間については、修理・買替完了までの事業に使用できない期間を指し、修理の場合は修理期間がそのまま休車期間になることが多いでしょう。
一方で、買替の場合は買替の判断に要する期間や納車に必要な期間、また営業車両としての許可を受けるのに必要な期間も考慮しなければいけません。

具体例な計算方法

運送会社のトラックが、次の条件の下で事故に遭ったものとして休業損害を実際に計算していきましょう。
ただし、先に述べましたとおり、個別事案によってその計算方法は異なってくることにご注意ください。なお、この事案は東京地裁平24・11・26がもとになっています。

事故発生日…………………7月26日
事故前3か月の売上………400万
 4月120万
 5月150万
 6月130万
事故前3か月の変動経費…172万
 ガソリン代…100万
 高速代…………24万
 人件費…………78万
・トラックの修理日数………39日

計算方法

① 一日あたりの利益

=(400万円(3か月間の売上)-172万(3か月分の変動経費))÷91日(3か月間の日数)≒2万5054円

② 休車損害

=2万5054円×39日(休車期間)=97万7106円

終わりに

休車損害は、認められるかどうか、また認められるとしてその額はいくらになるかについて個別事案ごとに複雑な判断が必要になるうえ、これを認めさせるにはそれぞれの争点に対応する資料を提出しなければなりません。
また、複雑な損害になるため、保険会社はどのような事案であっても支払いに応じようとしないのが一般的です。
そのため、休車損害が請求できるかお悩みになった場合は一度弁護士に相談されることをお勧めします。